第七話:コペンハーゲンと小さな青い箱(その1)
さて。
と、いうことで。
東銀河の歴史はいまちょっと――というか“いま”って概念自体が周章狼狽・紆余曲折・混乱怒涛・“はわわーー、ご主人さま~~♡”的右往左往の中にいるので言葉の選択が難しいのだけれども取り敢えず――“いまちょっと”ごちゃごちゃ・混沌・困惑・精神錯乱のなかにある。
もちろんこれには数え切れないほど多くの理由があるのだが、その大きな理由のひとつはもちろん例の『えっ!そんな簡単なことで良かったの?タイムトラベル問題』であり、それとはまた別の大きな理由のひとつには、その辺の歴史を記録しようとする人間の――こんなワケの分からぬ文章を書いては歴史家を気取ろうとしている男 (或いは女)のような人間の――頭のなかが“いまちょっと”雑駁・紛糾・ごたごたもつれ合っていたりするからなのであるが――え?なに?なにか言いました?
『“えっ!そんな簡単なことで良かったの?タイムトラベル問題”とはなにか?』?
あー、そっか、そうですね。――知らないひとは知らないんでした。
それではここで一応、ご存知ない読者の方もおられるだろうから、『えっ!そんな簡単なことで良かったの?タイムトラベル問題』について、少しばかりの補足をしておこう。
もちろん。
こちらの問題をようくご存知の読者の方は、これから左に書く“*”から“*”の間の文章は読み飛ばしていただいて結構であるし、“え?そんなの別に興味ないよ?”という健全・健康・壮健・達者な精神を持たれた読者の方――そんなハッピーな読者がもしいればの話だが――も読み飛ばしていただいてぜんぜん一向に結構である。
正直、本編とはあんま関係ないからね。
*
さて。
難しい話は端折る――と云うかそのへんの難しい話はアインシュタインとかネイサン・ローゼンとかカール・シュバルツシルトとかに任せるとして――現在と云うか未来と云うか“遠い昔、はるか彼方の銀河系で……”と云うかにおいても、
『時間旅行ってのには多大なる予算とエネルギーと精神的負担が必要なんだよなあ』
というのが長い間・短い間の宇宙的規模の常識とされていた。
と、言うのも。
この銀河に栖息・生息・棲息――と云うか絶賛間借り中の――知的生命体という知的生命体はどいつもこいつも、
『時間旅行をするためには光の速さに近付かなければならない。またはそれを超えなくてはならない――新しい未来へ!』
と云う先入観・思い込みをこの三十二億±α年ほど捨てられていなかったからなのである。
まあもちろん。
“オオツタハコバツバメバチ”のような人語も解するハチの一種が速度とはまーーったく関係のないタイムトラベルを行っていたりなんかりしたりしたのだが、このことを銀河の知的生命体たちが知るのは宇宙の終わりが直前に迫ってからのことだったりする…………ので、ま、この件は今回は無視することにしよう。 (注1)
さて。
で。
えーっと、なんだったっけ……?
ああ、そうそう。
で、まあ、その三十二億±α年に渡る固着概念・固定観念がくつがえされたのが星団歴4150年のことで、それを成し遂げたのがなんと――え?なに?今度はなんですか?
『“星団歴”ってなに?』?
あー、そうか、そうですね。――これも知らないひとは知らないんでした。
“星団歴”と云うのは、それまでそれぞれの恒星系でテンでバラバラだった紀年法を――ワープ航法・ワーム航法の急速な発展なんかもあって――「なんかそろそろ統一した紀年法が必要なんじゃない?」ってことで、当時まだボケが来ていなかったケン=イェンと言うお爺さんを座長にして決めた紀年法で――え?なに?だからなんですか?
『そのへんの細かい説明はいいので“西暦だと○○年に当たる”とかだけ教えて』?
あー、……そんなので良いの?
えーっと…………2005年の差があるワケだから…………星団歴4150年は西暦だと2145年に当たりますね、はい。
ほら、そちらの時代の地球のひとがどこまで知ってるか知らないんだけどさ、星団歴2003年から2037年の間に起きた大規模な時空変動の影響で当時の地球に住んでたヨシュアってお兄さんがいまのパレ――え?なに?あー、このへん興味ないの?…………面白いのに。
えーっと?
で、どこまで話したんだっけ?
あ、そうそう。
で、そう云う『光の速さに近付いたり超えたりしないと時間旅行は無理じゃん』っていう三十二億年来の意固地な偏見を覆したのが、当時星間連合に登録したばかりの発展途上惑星 《地球》だったんだよね。
で、なんだけど、この 《地球》って呼ばれる辺境惑星は、なんと言うか、星間連合登録当時においても、星内の統一すら出来ていないような野蛮極まりない惑星で、
「ちょっと待てよ、あんな (*検閲ガ入リマシタ)な地球人たちのことだ『ちょっくら過去まで行って銀河の歴史無茶苦茶にしてくるわ』と言い出すバカの一人や二人や一億人出て来てもおかしくないぞ?」
と、当時の星間連合本部長のタケット・デンチュー氏、これがまたエルビス・プレスリーにそっくりなんだけど (笑)、に言われるぐらい――――って、あれ?
*
「どうした兄貴?変な顔して」
「あ、いや、いつもならこの辺で坪井さんからのツッコミが入るハズなんだけど――」
「そう言えばここ最近見ていないな」
「そうなんだよ、メールの文章もなんか素っ気ないし」
「いよいよ見捨てられたんじゃないか?」
「いや、文章カットや修正は普通に受けてるし、アンケートもそこそこ――お前また変なことしてあの人困らしてたりしてないだろうな?」
「は?なんだよ?それ?」
「お前って気付かないうちに敵作るタイプだからさあ――」
「大丈夫だよ、坪井の兄さんとは上手くやってるって。――ってか、そっち早く終わらせて来月分のネーム書いてくれよ」
「ああ、そっか、そうだな。――ってか、詢梧の方は間に合いそうなのか?今月分?」
「俺の原稿は仕上げが残ってるだけ――いいからそっちを早く進めろって?いったい何の話をしようとしてたんだ?」
「ああ、そうそう。――コペンハーゲンポーカーの話をしようとしてたんだった 」(注2)
(続く)
(注1)
この“オオツタハコバツバメバチ”の特殊な生態については拙作『夢物語の痕跡と、おとぎ話の物語』の第三十四週以降に詳しく記しておいた。
なので、この驚異の生命の不思議に興味を持たれた方は是非ともそちらもお読み頂きたい。スッゲー面白いので。――宣伝終了。
(注2)
ここまで読まれて『あれ?結局“ナントカカントカ問題”の話はどうなっちゃったの?』と想われた真摯且つ紳士な読者の方のために補足しておくと、ここでこの作者の興味がまた別の方向に行ってしまったために、この“ナントカカントカ問題”についての話はここで中断、宙ぶらりんにされてしまうので、その旨ご海容頂きたい。
要は、安くて簡単なタイムトラベル航法――簡易な装置なら15万円くらいで製作可能――が出来てしまったため、時間旅行による混乱が銀河全体に波及した・している最中・し掛けている……ということである。




