幕間:詢子とグリコと時をかけめぐる女(その1)
「えーっと。あとは……“音をちゃんと拾えているかヘッドホンを使って確認のこと。”?…………オッケー、グリコ、なんかしゃべって」
「――って言うか先輩、そのヘッドホン左右逆じゃないですか?」
「え?ウソ?…………LとRってどっちがどっちだっけ?」
「Lが左でRが右耳です。――ってか、今日は作者さん来ないんですか?」
「Lが左……あ、そうそう。なんか取材と調べもので手が離せないんだって。――だから録音機材だけ送って来たっぽいよ」
「変な指示書と台本と一緒にですか?。――ってか、なんで私なんですか?」
「私たちのなかじゃいちばん活舌がよくて早口にも慣れてるからだって」
「早口だったら坪井さんとかでもいいじゃないですか」
「坪井さんのは口が勝手に動いてるだけだからセリフ読ますのには向いてないらしいよ。――あー、あとは、ほら」
「なんですか?」
「前回のラストの件があるから、あんまり連絡取りたくないんだって――作者さん的に」
「あー、アレ、どうするつもりなんでしょうね?」
「ねー、どーせまた何も考えずに決めた展開だよ、アレ」
「まあ私たちには直接関係する話じゃないからいいんですけど――」
「ねー。――あ、ごめん。ついでだからマイクに向かいながら喋って。音の確認もしちゃおう」
「あ、はい。えーっと、
“テステス、テステス”
“チェック、チェック、チェック、チェック。チェクワンツー――本日は晴天なり。”
……どうですか?」
「うん。大丈夫っぽい。――本番はもうちょいトーン上げない?その方がカワイイわよ」
「はあ――あー、えーっと、じゃあ。
“ア、エ、イ、ウ、エ、オ、ア、オ、”
“カ、ケ、キ、ク、ケ、コ、カ、コ、”
……こんな感じですか?」
「あ、いや、確かにそれはそれでカワイイけど、そんなバリバリの萌え系はちょっと――」
「え?そうですか――じゃあ、
“あ、め、ん、ぼ、あ、か、い、な、ア、イ、ウ、エ、オ。”
“う、き、も、に、こ、え、び、も、お、よ、い、で、る。”
……これならどうですか?」
「あー、これはこれでエロくていいけど……なんかフージコちゃんみたいで落ち着かないわね。――早口には不向きだし」
「もう。だったらどんなのがいいんですか?」
「どんなの?……あ、だったら、“早口バージョンの綾○レイ”あたりで」
「早口?あのキャラで?」
「そうそう」
「うーん?要は“早口な時の林○めぐみさん”ってことですか?」
「ま、そんな感じね」
「えーっと?――じゃあ、
“はるのあまげはながあまげ。
おあややおやにおあやまりなさい。
いえのあんどんまるあんどん、
となりのあんどんまるあんどん、
むこうのあんどんまるあんどん、
みっつあわせてみまるまるあんどん”
……これならいいんじゃないですか?」
「そうそう、これこれ。いいじゃん!さすがはグリコ」
「――はあ」
「じゃあ早速行きましょ。台本は持ってるわよね?えーっと……、えー……さん……に……いち…………アクション!」
*
「これまでのあらすじ。
BL漫画家・樫山詢子 (27)は悩んでいた。
というのも、結婚三年目、同棲期間を含めれば六年間をともに暮らした夫がある日突然――かどうかは当人に確認してみなければ分らないけれど取り敢えず――周囲の人間的には“ラブストーリーは突然に”的に『自分は実は男が好きだ。』という真実に気付いてしまったからである。
で、もちろんそれだけではそんなに悩まなくても良かったのかも知れないのだが、それに加えてこちらはマジで突然に、詢子と暮らしていた愛の巣――と言っても名義は詢子の父親のマンションの一室なのだけれども――を飛び出して行ったりしてしまってからである。
が、もちろんそれぐらいでへこたれるような樫山詢子 (27)ではなかったのだが、そこにさらにダメ押し的に、その実は男が大好きだった元旦那ってのが去り際に、
「詢ちゃんの描くゲイの人たちって、ウソんこのゲイなんだよね。」
というBL作家や腐女子の前では絶対に口にしてはならないっていうか、
「あのなさくら。――それを言っちゃあ、おしめえよ。」
的セリフを言い残して行ってしまったからであったりする。
で、まあそれぐらいだったら樫山泰士作品のヒロインを務めあげんとするところの猛女・樫山詢子 (27)ならばどーにかこーにか平気の平左で乗り越えれらないことも無きにしも非ずんば虎児を得ずであったのだだろうが、そこになんて言うの?そんなこんなで“思考回路はショート寸前”的パニックの時に、『もう男なんてこりごり。』的なことを想っている時に、雨に濡れたキレイな花嫁さんが“親方!空から女の子が!!”的に降って来たりはしていないのだけれども、どこからともなく湧いて出て来ちゃったりなんかして、
『兄さんの後輩だって言うし、兄さん狙いなのかしら?』とかそーんなテキトーなことを想っていたりなんかしたら、その雨に濡れたキレイな花嫁さんから、
「ぼく、詢子さんのことがずっと好きだったんです」
とかなんとか告白めいたことをされちゃったりなんかしちゃったりして、
で、そんでもってその雨に濡れたキレイな花嫁さんにポーッとなんかなっちゃったりしちゃったりなんかしちゃったりして、
『BLやめて百合でも描こうかな?』
とか想ってたら、
今度はそのキレイな女のひとがキレイな男のひとに変わっていたりなんかしちゃっちゃったりしてまあ神さまってのは残酷なんだな?ってあらためて想っていたら、そのキレイな男のひとが自分ちのキッチンで自分の兄と仲良く朝食なんか作っちゃっちゃったりなんか、こう、キャッキャウフフ&イチャコラしてたりしていたワケですよ!センセ!!
で、そうするってえとこちとら生粋のBL大好き腐女子なもんだからさー、その女装イケメンとウチのヘタレメガネ兄貴のどっちを右にしてどっちを左にするかってことで旧知の友人と同病相憐れむ的な論争・紛争・魂と魂のぶつかり合いなんかもやっちゃったりなんかしたワケですよ、分かる?この乙女が背負うには重すぎる業 (カルマ)ってヤツが?
でねでね、そんな“女子としてどうなの?”的煩悩・欲望・不純な想い・妄念・想念・煮ても焼いても食えない想い等などなどで煩悶しているうちに今度はその女性と見紛うばかりの男性の元カノ (もちろん女性)が彼の子どもを妊娠していたことが発覚――したぐらいだったらまだ普通のメロドラマで済むのだろうけれども、その元カノがいま一緒に暮らしているっていうか愛を育んでいる相手ってのがなんとこちらもまたまた女性で!!
しかもその彼女と彼女の恋人であるところの彼女 (もちろん女)的には、
「マコトくんの立ち位置はあくまで“精子提供者”ということにしてもらって、生まれて来る赤ちゃんは私たちだけで愛情持って育てましょうよ」
って感じにしようってことになっちゃったりなんかしちゃっちゃたりしたらしくてさあ……、
――って長いわ!!」
(続く)




