第六話:パンと胃袋と悩める乙女の救世主(その12)
〔証言その5:樫山泰仁 (31)&山岸真琴 (28)〕
「生年月日を教えてくれ?――なんですか?いきなり?
書いたメモをなくした?――バックアップは?――
取ってない?――なんで?
“みんながみんなお前みたいに小まめなワケじゃない”?――そうなんですか?
ならまあ、別に構いませんけど――。
えーっと……樫山泰仁31才。1988年5月4日生まれの牡牛座。血液型は――あ、そこまでは良いんですか?
ってか分かりますよね?……そうそう。典型的なA型人間。両親ともAですしね。
え?……あー、それもあって詢子とは合わないことも多くて。
血液型で判断するのもバカバカしいと言えばバカバカしいんですけど、あいつはあいつで父親に似たのかB型の典型みたいな……って、あれ?他にも誰か来るんですか?」
カチャリ。
「すみません。遅れてしま――あれ?先輩?」
「なんだ山岸も呼ばれてたの?」
「そうなんですよ、急にメール飛ばされて。
あきらと百合子さんのところに本を届けるところだったんでそっちを済ませて来たんですけど、そしたら遅れちゃって」
「あきらさん順調?」
「ええ、順調そのものだそうです」
「そっか、それはよかった。――そう言えば、そろそろ分かるころじゃないか?」
「え?」
「“ししとう”があるかないか」
「あー、あっ、じゃあそれかなあ?」
「なにが?」
「さっき二人が何か言おうとしてたんですよ――でもほら、ぼく急いでたんで」
「だったら多分それじゃないか?――電話してみる?」
「え?……あー、いやあ」
「なに?」
「その……早過ぎないですか?」
「うん?……でも、もう分かる頃だろ?」
「いやその……だってほら……出て来たときに?知るもんじゃないんですか?――“付いてた!”“付いてなかった!”……みたいな?」
「あー、経験がないから分かんないけど…………でも服とか名前とかさ、先に分かってたほうが良い部分もあるだろうし」
「あー、まあ、そうなんでしょうけど……」
「いや、まあ、山岸が知りたくないってんなら無理強いはしないけどさあ――その辺どうなんですか?」
――――。
「……あれ?」
――――。
「……あの、すみません?」
――――。
「……先生?」
――――。
「……樫山先生!」
――――え?あ?僕?
「僕が“樫山先生”って呼びかけるとしたらあなたしかいないじゃないですか?」
――ああ、ま、そうだけどさ。
「先生はお子さんいらっしゃるんでしょ?」
――女の子がひとりね。小っちゃいし離れて暮らしてるけど。
「どうでした?いつごろ知りました?」
――それはまあ、いまの真琴くんと同じぐらいですね。妊娠3~4ヶ月?とか?
「な?山岸?」
「えー、じゃあ皆さん普通にいまごろ知るもんなんですか?」
――やっぱ服とか名前とかオモチャとか揃えるものもいっぱいあるしねえ。
「な?だからお前も聞いとけって」
「えー、なんかイヤだなあ」
――まあでも、いま無理に聞かなくてもどうせいつかは聞くことになるし、それはそれでいいんじゃない?
「え?そうですか?」
「ですよね?さすが作者さん。分かってらっしゃる」
――男親なんて所詮そんなもんですよ。それに、その辺のさじ加減は“こちら”でどうにでも出来ますし。
「はあ……僕はちょっと知りたいけどなあ」
「いや、先輩も当事者になれば分かりますよ」
――ま、その辺は“こちら”に任せておいて、そろそろ本題に入りたいんですけど。
「あ、そっか。そうでしたね。――じゃあ山岸、また分かったら教えてくれよ?」
「それはもちろん。“その時”になったら」
――えーっと。じゃあ“ししとう”の件は一旦置いておいて――あ、そだ。先ずは真琴くんの生年月日教えて。
「は?」
「なんかこの人、みんなの誕生日書いたメモ失くしちゃったんだって」
――ごめんね、取っ散らかった作者で。
「はあ……まあいいですけど。
えっと……1990年10月21日。さそり座のO型。――これで良いですか?」
「詢子と同じ学年なんだよな?」
――は?
「……ちがいますよ?先輩」
「え?」
――そう言えば、前にも勘違いしてましたよね。 (注1)
「先輩って時々そういうことありますよね?普段はうっとうしいくらい几帳面なのに」
「あれ?そうだっけ?――時間絡みはときどき狂うんだよなあ」
「――へ?」
――あー、何でもない、何でもない。その辺はそっとしといて――って言うか、そろそろホントに本題を。
「あ、そっか。ごめんなさい」
「ってか、本題ってなんですか?」
――えっとね。関係者に漱吾くんの印象を聞いてまわってるんだよ、キャラの深掘りの一環で。
「漱吾の印象?」
「キャラの深掘り?――そんなの作者さんのさじ加減ひとつなんじゃないんですか?」
――まあそれもそうなんだけど。一応ほら、実際に見知った人たちの証言を基に作りたいわけ。――僕ほら一応、根が歴史家だから。
「歴史家って……」
「って言っても漱吾さんってよく分からない人ですよ?いい人はいい人なんでしょうけど」
――そうなんだよ、よく分からないんだよ。それで僕も困っててさあ。
「と言うか、そういうのって歴代の彼女さんに訊いた方が確かなんじゃないですか?」
「ですよね?いっぱいいるって話ですし」
――それが元カノも多過ぎてさあ、誰から訊いていいか分からないんだよね。
「あー、両手じゃ足りませんもんね」
「え?そんなにですか?」
「山岸はあんまり知らないだろうけど、アイツはモテるうえに“基本的には”あとくされなく別れてるらしくてさあ (注2)――どんどん変わって反省もないんだよ」
「それは……うらやましいようなうらやましくないような」
――ねー、でも、なんであんなにモテるんだろうね?
「まあ、“あの目”で見られたら女のひとはクラクラッてしちゃうのかも知れませんね」
「“あの目”?」
――そう言えば、詢子さんたちも似たようなこと言ってましたね。
「作者さんはさておき、山岸もされたことないか?――時々……なんて言うかなあ……僕にも“あの目”をするんだよ。
で、たとえば僕が女のひとだとして――変な意味じゃなくてね――アイツに“あの目”で見つめられたとしたらさあ…………なんだろう?“ちょっと付き合ってみようかな?”……ってなっちゃうんじゃないかなあ?」
(続く)
(注1)
第一話“その4”を確認のこと。
これはあくまで泰仁個人の勘違い・記憶違いであり、作者のミスというワケではないので (必死)、賢明かつ懸命な読者諸姉諸兄におかれましては、その旨重々ご承知置きのうえ、今後ともこちらの物語を作者もろともごひいき引き倒しのほどよろしくお願い致します。 (必死×2)
(注2)
こちらも第一話“その4”を確認のこと。
ここで泰仁が“基本的には”と強調したのは、極まれに、目も当てられないぐらいに、刃傷沙汰になってもおかしくないぐらいの、大修羅場が起きて、しかも、そういう時に限って、何故か泰仁もその大修羅場に巻き込まれるようなことが実際に何度かあったからである。




