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第六話:パンと胃袋と悩める乙女の救世主(その4)

 王さまが即位して8年目のことです。


 南の大国“ウバラ”が王さまの国に攻め入りました。


 王さまは兄弟国である“エイ”に救けを請うため、ホメリニスにペクニア百斤とそれに四十頭の馬を持たせ“エイ”に使いに出るようおっしゃられました。


 が、しかしここでホメリニスは天井を見上げると大きな笑い声をあげ、その大きく開いた口はホメリニスのかぶっていた冠のひもをすべて切るほどでした。


 すると、そんな彼のようすを見た王さまは、


「お前は、私のおくり物の数が少なすぎると想って笑うのか?」


 と訊きました。


 すると、これに対してホメリニスは、


「いえいえ、めっそうもございません」


 と答えました。


「さきほど私は、この王宮へ来る途中、道ばたで豊作の祈りを行っている男を見かけました。

 が、しかしこの男、馬の蹄鉄ひとつといっぱいの葡萄酒をささげただけで、


 “せまき山よりカゴに満て、

  低き土地よりダイに満て、

  五穀よ実れ、

  家を満たせ。”


 と唱えているのです。

 私は、その男の強欲さ加減を想い出して、ついつい笑ってしまったのです」


 すると、これを聞いた王さまは、改めてペクニア千溢とコランダムの宝玉十対、それに馬四百頭を“エイ”に贈ることにしました。


 そうして、これらの贈りものを見た“エイ”の王さまはたいそうよろこび、精兵十万・兵車千台を出してくれ、この話を聞いた“ウバラ”の軍は早々に王さまの国から立ち去って行くことになるのでした。


     *



〔証言その3:フフォン・ラ・カスティリオーヌ(年齢非公開………………って、誰だこれ?



「あら、誰だとは失礼ね」


 ――え?…………ええ?!鷹子さん?!


「おひさしぶり」


 ――え?え?いつ?いつ日本に?


「着いたのは最近よ。三日ほど前かしら?」


 ――え?まさか、このためにわざわざイタリアから?


「まさか違うわよ。新作の宣伝で各地を回っててね、その一環で日本にも来たの」


 ――新作?っていつもの恋愛自己啓発的なやつですか?


「そう。今回は7ヶ国語に翻訳されるそうだから、その分いろんなところに行かなくちゃいけなくて大変なのよ」


 ――っていうかペンネーム変えたんですか?


「あなたホントにこっち方面のことは知らないのね」


 ――はあ?


「わたしがペトロと別れたのは知ってるわよね?」


 ――あ、そうだったんですか?


「もう、ホント知らないのね。それでフィレンツェを離れてしばらくはライナスと一緒にパリで暮らしていたんだけど――」


 ――ライナス?


「ただのボーイフレンドよ、安心して。長くはなかったから」


 ――はあ。


「で、その後アナックとかクレメントとか、まあ、何人かのひととお付き合いして、いまの亭主のルイスにプロポーズされたの」


 ――え?!再婚されたんですか?


「そうよ、ほら、結婚指輪が変わってるでしょ?」


 ――いや、そんなひとさまの結婚指輪の形までおぼえてないですけど……、


「それで、ルイスのほうの姓に変えることにしたから、ついでにペンネームの方も変えたってわけ」


 ――はあ、まったく知りませんでした。


「何年だっけ?4年ぐらい会ってないんだったっけ?」


 ――あー、もうそんなになりますっけ?


「なによとぼけちゃって…………アタシに会えなくてさみしかったりしたんじゃないの?」


 ――え?いや、全然。


「……ほんとに?」


 ――ええ、まあ……なんで近付いてくるんですか?


「ああ、ちょっと声が聞き取りにくくてね…………で?どうなの?新しい恋人とかは出来た?」


 ――あ、まあ、いちおう……って、すみません。ちょっと香水の匂いが……。


「あら?気付いた?旅に出るときは変えることにしてるのよ。――どこにあたらしい出会いが待ってるか分からないじゃない?」


 ――あの……足をヒザに乗せるのやめてもらえませんか?


「え?平気よ、どうせ誰も見てやしないんだから――」


 ――いや、スタッフが外で待ってま……すみません。胸が当たってるんですけど……。


「あら?ごめんなさい。気付かなかったわ。――でもいいのよ、私なら気にしないから」


 ――あの、ホントすみませんが、私、これも一応仕事の一環でして……、


「なに言ってるのよ、ホント相変わらず硬いわねえ。いい?男が硬くして良いのは――」


 ――ストップ!鷹子さん。さすがにそれはストップ。


「もう。つまんないひとねえ――じゃあ楽しみはまたにしておくわ」


 ――って言うか、そもそもなんでここに?漱吾くんと何か接点あるんですか?


「ああ、直接はないわね」


 ――だったらなんで?


「ユーリの代わりよ。彼女いま離婚調停中で忙しいから」


 ――“ユーリ”って誰ですか?


「“由梨佳”よ、“如月由梨佳”」


 ――ああ、タイタニックの。(注1)


「そうそう。私ってほら若いころからずっと色んなひとの恋愛相談乗ってるじゃない?

 で、由梨佳が漱吾くんと付き合ってたときもさ、いろいろ話を聞いてあげてたのよ」


 ――漱吾くんに手を出したりはしなかったんですか?


「そりゃあ一応、その辺の線引きはしっかりしてるわよ。――それにあの頃は年下には興味なかったしね」


 ――はあ。


「でもさっき改めて写真見たけどなかなかいい男になってるじゃない――彼、いまはフリーなのよね?」


 ――すみませんけど、それやられると話がグッチャグチャになってくるので自重していただけませんか?


「あら、ひとがひとを愛する気持ちは止められないものよ?」


 ――いえ、ですから、それは旦那さんに。


「大丈夫よ、ルイスはそのへん鷹揚だから」


 ――鷹揚って……じゃあまあ、無理にとは言いませんけど、それこそ真琴くんが暴れ出したり絶望で死にたくならないレベルで抑えてくださいね……って、彼は知ってるんですか?


「なにを?」


 ――“お姉さん”が日本に戻っていること。


「ううん。まだ伝えてないけど、そろそろ知るころじゃない?」


 ――“そろそろ知るころ”?


「ええ」


 ――えーっと?それってどういうことですか?



(続く)


(注1)

 第五話“その4”を確認のこと。

 漱吾くんの元カノって多過ぎて誰が誰だか分からなくなるよね。


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