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第六話:パンと胃袋と悩める乙女の救世主(その2)

 ホメリニスが王さまの国にやって来たとき、王さまの国はまだそれほど乱れてはおりませんでした。


 ホメリニスの家はまずしく、彼はある商家のお婿さんとして王さまの国にやって来たのです。


 ホメリニスは背が低くお世辞にも美男子とは言えませんでしたが頭の回転が早く、お酒の壺からお酒が流れ出るように口からたくさんの言葉を出してはそれが尽きないようなひとでした。


 すると、そんなホメリニスのうわさを聞いたある大臣は彼を取り立てると、しばしば周辺の国々への使いとして彼を送り出すようになりました。


 しかしそれでもホメリニスは、一度として相手の国の人たちから侮られるようなことはなかったのだそうです。


     *


「おい漱吾、お前あの子になにしたんだよ?」と、樫山泰仁 (31)が訊いて来たので、


「別になにもしてないよ」と、彼の顔に自分の顔を近付けながら三尾漱吾 (31)は応えた。


 ここはいつもの喫茶店。いつもの『シグナレス』の窓際テーブル席である。


「だってお前、明らかに無視されてるじゃないか?」と、ふたたび樫山。


「……やっぱそう想うか?」


「そりゃ想うだろ?この席に着くまでお前のセリフ全部流されてたじゃないか」


「やっぱり俺の気のせいじゃなかったのか」


「お前まさか……」


「ないない。さすがに高校生相手にそれはない」


「ほんとか?おまえ誰にでも愛想ふりまいちゃあ芽を出させたり花を咲かせたり――」


「ないない。その辺の線引きはキチンとさせて――」


「ご注文お決まりになりましたか――」


 と、ここでこの店のウェイトレス (赤毛・長身・16才)が抑揚も感情もない声でふたりに声を掛けた。


「本日の日替わりスイーツはグレープフルーツのショートケーキとなっております――」


 すると先ずは樫山が――彼は彼女の声のトーンの中にある種トゲのようなものを感じ取ることが出来たので、


「あ、じゃあ僕は、そのケーキに紅茶のセットをお願いします」


 と、母や妹や数多の女性編集者たちとのやり取りで培われた“鬼神は敬してこれを遠のく”的態度でこれに対処した。


 が、しかしここで安心していてはいけない。


 なぜなら彼女が、


「かしこまりましたー。紅茶はいつものアールグレイでよろしいですかーー」


 と、ふたたびトゲの入ったトーンで訊いて来たからである。


 であるからして樫山は、


「はい。それでお願いします」


 と、本当はセイロンかアッサムにしたかったのだが――そんなことを正直に話してはどんな惨事に見舞われるか分かったものではない (注1)――言われるがままにアールグレイで我慢することにした。


 しかし、ここで困ったのは漱吾のバカ野郎である。


 このクソイケメンは、なまじっか顔がよくて女性にもモテるためにこういう時の女性への対応が下手くそというか、そもそも樫山が受けたような経験からして持ち合わせていないのである。


 であるからしてこの阿呆は、


「あー、俺はこのまえ食べたアレが良いな」


 と、ついついいつもと同じトーンで彼女に対した。


 そのため彼女は、


「アレでは分かりかねます――」


 と、更に抑揚も感情もない声で言い、


「あ、いや、だから、あの丸くて甘くて真ん中に黒いフルーツ?的なものが乗った」


 と、漱吾が必死に続けようとするにも関わらず、


「それだけではまったくなんのことやら――」


 と、更に更に抑揚も感情も取り付く島もなくした声と表情で応えた。(注2)


「あー、じゃあもうちょっと待ってもらえる?」


「本日の日替わりスイーツはグレープフルーツのショートケーキとなっております――」


「うん?いや、だからそれは樫山が――」


「本日の日替わりスイーツはグレープフルーツのケーキとなっております――」


「うん。だから俺はそれとは別のに――」


「本日の日替わりはグレープフルーツのケーキとなっております――」


「あー、それじゃあ――」


「本日の日替わりですか?――」


「え?いや、あの――」


「グレープフルーツのケーキですか?――」


「いや、アップルパ――」


「グレープフルーツですか?――」


「リンゴの――」


「グレープフルーツですね?――」


「………………………………はい」


「かしこまりました――」


     *



〔証言その2:坪井東子 (30)向学館文芸部編集者〕



「え?年齢?なんですかいきなり?……右の年齢が合ってるか確認してくれ?


 あー、はいはい。えーっと、合ってますけど、なんでいきなりそんな失礼な……


 “昨日の連載で他のひとから指摘を受けた”?……キャラの年齢把握してないんですか?


 あー、まー、樫山先生も時々やりますけどー、年齢間違えたり利き腕間違えたり移動の時間設定間違えたり――。


 ええ。ですからまあノート取っておいて下さいっていっつも言ってるんですけど、ほら勢いで書いちゃうひとなんで、私も自分のノートに書き残しておいて…………って、私の誕生日とか分かってますよね?


 そうそう。1988年の……違う!…………ええ、おとめ座ってのは合ってます…………9月の?……あー、惜しい!19日ですよ。


 ダメですよ、キャラの誕生日ぐらいキチンと……え?!彼女さんの誕生日も忘れちゃったりするんですか?うわー、それはちょっと――。


 え?樫山先生はその辺マメですよ?去年も私の誕生日に「いつもお世話になってるから」ってお花とケーキを贈ってくれてですね。


 ですから作者さんも彼女さんにそれぐらいのことやってあげ――って、やだ!ちょっと!!この言い方じゃあまるで私が先生の彼女さんみたいじゃないですか!!もうもうもう!!!……と、すみません。ちょっと取り乱してしまいました。


 で?え?そうそうそう。おとめ座なんですよー。


 だからおうし座の樫山先生とは相性いいハズでしてー、いや、最初はちょっと苦手?っていうか分かりにくい人だなって感じはありましたけどー、そこはそれ作家と編集としてですね、


 時間をかけてですね、


 信頼関係を築いてですね、


 特に先生は何にでも真剣に時間をかけて答えを出そうとするひとなんでですね、


 その出して来た答えをですね、


 編集長みたいに頭っからダメだしするワケじゃなくてですね、


 キチンと評価したうえでですね、


 直すべきところは直し、


 伸ばすべきところは伸ばし、


 そうやって互いに助け合うことで、


 大きな成功に導いていく――


 と言うのが、私の責務だと想っているワケでしてですね、


 それがですね、


 こうですね、


 仕事面だけじゃなくてですね、


 プライベートの面でもですね、


 もっと……こう……その……お近付きに……って、


 きゃーーーー!!!!!!


 もうもうもう、なに言わせるんですか!!


 この変態ベレー帽!!


(――変態ベレー帽???)


 えー、だってー、樫山先生ってー、


 奥手でー、


 ヘタレでー、


 及び腰でー、


 恋愛下手じゃないですかーー、


 こーんなカワイイ編集者が真横にいるのにぜーんぜんそんな気のあるフリも見せな――あ、まー、でも、ときどき私の胸に熱い視線を注いで来るときがあるんで、そんな時は、私も、ちょっと、こう……、


 って、きゃー、もうもうもう、なに言わせるんですかー、このドスケベエロメガネ!!


(――ドスケベエロメガネ???)


 でねでね、樫山先生ってですね――


(※この辺のノロケ話はクッソ長い上になんだか腹が立って来たので中略)


 という感じで、樫山先生との仲はなーんにも進んでおりませんので、作者さんのお力でもう少しなんとかして頂ければ――、


 え?それは作者の自分でも書いてみないとどうなるか分からない?


 えー、作者さんのくせになんか使えないんですね。


(――???)


 はい?……“それはさておき、そろそろ本題に入っても良いか?”


 え?いままでのは本題じゃないんですか?


 あー……“三尾漱吾についての印象が知りたい”?――なるほど。


 漱吾さんて樫山先生のお友だちのイケメン風のかたですよね?


 うーん?――と言ってもあんまり接点ないんですよねー、たまーに先生のお宅で会うぐらいで――って、なんであの人先生のお宅に入り浸ってるんでしょうね?


 へー、大学時代からのご友人なんですかー、あー、まー、うちの編集部でもー、あのほら、山岸さんが現れるまでは、先生とあの方で妄想する剛の者もおりましたけれど……あ、いや、私は全然ピンと来なくってーー、


 あ、でも、おかげさまでいまや我が編集部は“カシ×マコ”で大盛り上がりですけどね。


 そうそう。イラスト描けるメンバーも多数在籍しておりますので、まー、もー、部長自ら陣頭指揮を取ってこのままいけば一冊出せるんじゃないかって感じでですね――


(※この辺の話もクッソ長いうえに男性陣にはキッツイ話になりそうなので中略)


 という感じで、本が出来たらまたお裾分けしますね。


 で、そうそう。漱吾さんの印象でしたよね?――でも私、樫山先生しか見てないしなあーー。


 あー、でも、あのひと女性にはマメな印象ありますよね、私にもちょこちょこメール来ますし。それでお仕事のつながり出来ることとかもありますし。


 そうそう。「え?そんな人ともお知り合いなんですか?」みたいな感じでつながりがあって。


 うん。そーゆー意味では、なんだかんだで他のひとのことをよく見てらっしゃるんじゃないですか?」



(続く)


(注1)

 樫山は高校三年のとき、似たようなシチュエーションで学生服の左腕をなくしたことがある。


(注2)

 ちなみにいつもの彼女なら、例の特殊能力でもって、この情報だけでケーキを当てられたりしますし――実際、今回も分かってたとは想うよ、うん。


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