表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/234

第四話:グリコとキョロ(その11)

「そっかー、それは残念ね」


 と、両の手以外はピクリとも動かさぬ姿勢と態度でもってカトリーヌ・ド・猪熊 (絶賛締め切り地獄中)は言った。


「グリコちゃんとキョロくんならお似合いかなとも想ったんだけど」


 シャシャシャシャシャシャシャシャ、


 と、2B鉛筆がケント紙の上を跳ね回る音が鳴り響き、


 カリカリカリカリ、カリカリカリカリカリィ!


 と、ばかりにGペンが別のケント紙の上を跳ね回る音が響く。


『この音はひょっとして、両手別々に描いているのでは?!』


 と、森永久美子 (24)以下3名のアシスタントは想ったのだが、


「頭を上げているヒマなんかないわよ!」


 との猪熊の厳命もあり、彼女たちは彼女たちで、


 テテテテテテテテテテテテテ。


 と、点描を打っては、


 コシコシコシコシコシコシ。


 と、消しゴムをかけ、


 カカカカカカカカカッ、


 ペタペタペタペタペタペタァ


 と、ばかりにトーンを貼っていたので、


『漫画界の宮本武蔵』と詩にまで謳われた猪熊の秘儀“Gペン二刀流”を直接その目で見ることは叶わなかった。


 ――ってか、なんでこんなに修羅場ってるんですか?先生。


「取材に時間をかけすぎたの」


 と、ペン先から飛ばしたインクでひと息に人物ベタ塗りを済ませてしまう猪熊。


「あと“少女マンガモード”のせいね」


 ――はい?


「コウさんといちゃつきすぎたの」


 …………はあ。


     *


 ということで。


 こちらはいつもの猪熊先生のマンション――仕事部屋の方の、上石神井のマンションである。


「ところでキョロくんって誰だっけ?」と、“ドラフトブルーのお駒”こと望木駒江 (36)が背景パースを取りながら訊き、


「あのほら、先生のクリスタルコンフリクト (注1)のチームに時々助っ人に来る――」と、“プレミアムホワイトのカズ”こと野崎和江 (32)がヒロインの瞳を輝かせながら答えた。「ちょっと地味めのイケメン」


「ああ、あの『ライオン・オブ・マーチ』っぽい子ね」と、お駒が続け、


 カリカリカリカリカリカリ。


「そうそう。雰囲気神木くん入ってる子」と、カズも続けた。


 ススス、ススス、スス、ピッ。


「え?なに?グリコちゃん、あの子フッちゃうの?」と、こんどはグリコに向けてお駒は訊き、


 カリカリ、カリカリカリカリ。


「あー、えー、そのーー」と、引き続き点描を打ちながらグリコは答えに窮した。


 テテテテテ、テテテテテテテテ。


「ちょっともったいないんじゃない?」


 カカカカ、カカカカ、カッカッカー。


「そうそう。声も河西健吾さんみたいで私タイプだったなあ」


 シャシャシャシャ、シャシャシャシャ、シャッシャッシャー。


「なに言ってんのよ、この旦那持ちが」


 カッカカ、カッカカ、カー。カッ。


「それとこれとは別腹よ、目で見て楽しむだけなんだから」


 スッスッス、スッスッス、スーー。


「ま、目で見るだけならね」


 カッカ、カッカ、カッカ、カッカ。


「ってか、あの子のどこがイヤなのさ?」


 シャッシャ、シャッシャ、


 シャッシャ、シャッシャ。


「いや、とくにこれと言ってイヤな部分があるワケじゃないんですけど」


 トトトーー、トトトーー、トトトーー。


「じゃあ、付き合うだけ付き合っちゃえば?」


 カカカッ、カッカ。


「そうそう。ただただキープしとくってのも手だしさあ」


 シャシャシャーー、シャシャッシャーー。


「そうよね、お互いまだ若いんだし」


 カカカッ、カッカ。


「あんな優良物件そうそうないわよ?」


 シャシャッシャ、シャッシャ。


「付き合っちゃいなよ」と、ここでグリコのほうに顔を上げながらお駒が言い、


「そうそう。付き合ってみたらあんがい楽しいかもよ」と、原稿用紙から筆を離しながらカズが言ったところで、


「手が止まってるわよ」


 と、まるで時空ときの支配者でもあるかのような、清閑寂々粛然たる声でカトリーヌ・ド・猪熊が言った。


 なので必然的に、彼女ら三人は、


 カカカカ、カカカカ、


 シャシャシャシャ、シャシャシャシャ、


 テテテテ、テテテテ、テテテテテ。


 とばかりに、それぞれの作業へと戻って行った。


「おしゃべりも別に良いけどね」と、こんどは三枚同時にペンを入れながら猪熊 (な、なんだってーー!!)「手を止めるのだけは止めて」


 ――デジタル化しないんですか?


「それだと魂が入らないでしょ?」


 ――はあ。


「それからね、お駒にカズ」


「へ、へえ」


「なんでヤンスか?」


 ――なに?その答え方?


「グリコさんだっていろいろ考えてのことらしいけえのお、オドレら外野が蒸し返してええ話でもねえよ」


「へ、へえ、すいません」


「分かりましたよ、姐さん」


 ――なに?ここってなにかの組なの?


「なあ、グリコさんよ」


「へ、へえ」


 ――いや、森永くんまで。


「江崎の旦那の……コホン……江崎くんの顔をきちんと見て決めたことなんでしょ?」


 ――あ、戻った。


「……はい」


「なら仕方ないわよ。しっくり来てないのに無理矢理付き合っても互いのためにならないもの」


「……おばあちゃんにも同じようなこと言われました」


「うん。なら、あとはきちんと伝えるだけね」


「……それがいちばん憂鬱なんですよね」


「江崎くんなら分かってくれるわよ、おとなの男だもん」


「あ、いや……」


「なに?」


「キョロはまだいいんですけど……」


「うん?」


「問題は先輩たちで……」



(続く)


(注1)

 それはFF14のPvPな。

 いい加減覚えろって「クリケット」です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ