第四話:グリコとキョロ(その3)
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「だって――マンなんでしょ?」と、ヨーロッパのプラハにある何とかって橋のうえでヒロインは言った。「きみのことずっと見てたんだから分かるよ」
すると、そんな自分の正体を見破られた主人公の少年は、あまりの展開になかばフリーズ状態になり、
『なるほど。これはペトロくん的には相当きついですね』と、脚本の巧みさに感心しながら森永久美子 (24)は想った。
フッ。
と横を見ると、こちらも右手にポップコーンを持ったままフリーズ状態になっている幼なじみがいた。
プッ。
と、自分でも気付かないうちに彼女は小さく笑っていた。
口を開けたまま、スクリーンの世界に没入している――多分、主人公のペトロ少年に共感しているのだろう彼が、なんだかたいへん“好ましい”ように想えた。
それから彼は、そんな彼女の視線に気付いたのだろうか、久美子のほうにすこしだけ視線を向けると、ちょっとはにかんだ様子を見せてから、彼女に何がしかを訊こうとしたのだが――、
ゴォオォォオンン。
と、プラハの街に新たなモンスターが現れたため、彼のその質問はふたたび胸にしまわれることになった。
*
「りょうかーい。じゃあ時間は……って、真琴くんはいまドコなの?臨海公園?……ってどこだっけ?……あー、はいはい。えーっと、じゃあ、ちょっと待ってねーー」
そう言って佐倉伊純 (29)はスマートフォンの通話口をおさえると、
「場所は?四ツ谷でいいの?」
と、むかいに座る樫山詢子 (27)に訊いた。
すると訊かれた27才 (精神年齢12才)は、その灰色だか乙女色だかの脳細胞を当社比1.26倍の速度――ってことは結局そんなに速くはないのだけれど――でフル回転させると……、
「よ、四ツ谷の……あー、ちょっと待って、ちょっと待って――」
と言いつつスマートフォンをペシペシ叩きながら――、
「う、うん。四ツ谷でいい、四ツ谷で!」
と、答えた。
それから、
「時間は?いつの回?」と、続けざまに伊純が訊いて来たので、
「えーっと……12時30分か14時30分!」と、ふたたびスマートフォンをペシパシペシパシと叩きながら詢子は答えた。
「オッケー、了解」と、おさえていた手を通話口から離しながら伊純。
「あー、ごめーん。おまたせーー。うんうん。そうそう。……うんうんうん。
あー、そうそう。でね?四ツ谷のフォレスト6って知ってる?三丁目の駅から歩いて10分ぐらいの。
あー、そうそう。そこがいまなら12時30分の回がいちばん早くて、次は14時30分だっ……え?あ?ちょっと待ってね?――“詢子さんのご都合は?”ですって」
「え?は?いや、あー、えー、私はどっちでも――真琴さんさえよろしければ」
「は?もう、ここはこっちから誘ったんだから、こっちから言わないと――。
あー、じゃあ、もう、“善は急げ”ね。早いほうが良いわね、早いほうにするわよ?」
「え?あ?う??大丈夫――うん。大丈夫」
「オッケー、了解。
あー、ごめーん。お待たせーー。
えっとー、そしたらー、12時30分のほうがいいみたいなんだけどーー?
オッケー?あー、ありがとーー。
うーん、うんうん。じゃあ、詢子にもそう伝えとくねーー。……はい。はいはい、はーい、はい。
え?いやあ、大丈夫じゃない?詢子ならそんなの気にしないし。……うん。
あー、じゃあ、あとはふたりで連絡取り合って。――はーい。よろしくお願いしまーーす」
プツ。
「どだった?」
「ぜんぜんオッケーだって。映画も久しぶりで楽しみだって」
「そっかー……あー、なんか急に緊張感が増して来た」
「あ、たださー」
「なに?」
「出先から直接行くから着換えとかするヒマないけど良いかってさ」
「ああ、そんなのこっちだって普段着のままだし、全然気にしないよ――」
(続く)




