第三話:江崎と森永(その12)
「は?いやですよそんなの、バッカじゃないですか?勝手に決めないでくださいよ、頭沸いてんじゃないですか?この (*検閲ガ入リマシタ)な漱吾さんのくせに――」
と、彼女には珍しい早口&罵詈雑言で森永久美子 (24)は答えた。
よほど今回の三尾漱吾 (31)の発言というか提案というかが腹に据えかねたのだろう。いつもの『“考えてから発言しましょう”脳内自分会議』の承認・決済をいただくどころか稟議書の提出さえ行われていない状況のようである。
――でもグリコくん、流石に (*検閲ガ入リマシタ)は言い過ぎなんじゃない?
「いいんですよ、漱吾さんには (*検閲ガ入リマシタ)とか (*検閲ガ入リマシタ)ぐらい言わないと通じませんから」
――でも彼、ショックで固まっちゃってるよ。
「いいんですよ、固まらせるために言ったんですから。――ってか、あんまゴチャゴチャ言うようでしたら作者さんだって容赦はしませんよ?」
――ご、ごめん。
「分かれば良いんですけど。――ってか、進めなくていいんですか?お話」
あ、ああ、そうだね、そうだったね。
……えーっと、どこから続けよう?
*
「いや、でもぼくもお似合いだと想いますよ?」
と、こちらは絶賛フリーズ中の漱吾と交代した山岸真琴 (28)の発言だが、
これに対してもグリコは、
「ごめんなさいね、山岸さん。会って日の浅い山岸さんにどこまで言っていいのか分かりませんけれども、自分の恋人を女に寝取られた上にシッポ巻いて逃げて来たようなユウグレジンチョウコドクミノウスバ並みの (*検閲ガ入リマシタ)しか持ち合わせていない (*検閲ガ入リマシタ)みたいな殿方の見る目を信用しろと言われましても、こと色恋沙汰に関しましては信用出来るものでもないと想いませんか?想いますよね?少なくとも私はそう想います」
と続けた。
が、ここで“すこし言い過ぎたかしら?”と、すこし反省しかけた彼女ではあったのだが、なんと言うか、その、ちょっとおどろいた顔でこちらを見る真琴の男装姿 (注1)が『LOVERS (原題:十面埋伏)』のときのチャン・ツィイーの男装姿を連想させてしまったりしたこともあって (注2)、もう、こう、なんて言うの?女としていろいろ腹立たしくなって来たし、しゃべり出した口はまるで別個の生物であるかのように動きを止めてくれる気配すらないってことなんかもあったりなんかしちゃったりして――、
「ていうかですね、だいたいそんなクッソきれいな顔しててキョロのことを気に入られたって言うんでしたら先ずは山岸さんがアプローチされるってのもアリなんじゃないですか?もちろんボーイズラブ的な意味でってことですけどね?そのほうがきっとキョロもよろこぶでしょうし。というか、我々女性陣も大変よろこぶでしょうし。って言うか先輩あたりは喜び勇んで32ページ読み切り形式の (*検閲ガ入リマシタ)で (*検閲ガ入リマシタ)なキッツイ同人誌を描いてくれると想いますよ?いやきっと描くんだろうな、先輩なら。もちろん十八禁で。あ、なんなら私も手伝いますし。いまなら夏コミにも十分間に合うとは想いますし。いや、どうにかこうにか間に合わせますし――って言うか親御さんを悲しませたくはないでしょう?」
と、その詢子が切るであろうネームを妄想しつつ言った。(注3)
と、ここでまた彼女は“さすがにこれは言い過ぎかしら?”と、また改めて反省しかけたのだったが、そんな時にかぎって間が悪いのが樫山泰仁 (31)である。
彼は、
「ちょっと森永くん落ち着いて――」
と、いつもの、あの“人の気持ちが分かっているのか分かっていないのか自分もまわりもよく分かっていない”感じの声とタイミングでグリコに声をかけたのだが (注4)、すると当然グリコは、というかグリコの身体は、この“人の気持ちが分かっているのか分かっ (中略)い”な男から我と我が身をまもるため、ザザッと速やかに臨戦態勢へと入り、先ずはその野武士のような三白眼を樫山のほうへと向けた。
そう。
この時のグリコの精神テンションは今!例えるなら貧民街時代のシーザー・アントニオ・ツェペリ (注5)のごときピリピリとした感覚を取り戻しており、
『冷酷! 残忍! そのおれがきさまを倒すぜッ』
とか言っちゃっても、まあ、このお話の作者的には全然困らないどころか是非やりたかったりもするのだけれど、さあそこで困っているのはここの赤毛のウェイトレスである。
――って、なに?ここ公共スペースなの?!
*
ということで。
街の小さな喫茶店『シグナレス』の看板ウェイトレス (赤毛・長身)は困っていた。
というのも、いつも無口で神経質でとっつきにくくて三白眼で、だけどけっこう根はいい人なんだろうなあ……と、そこはかとなく想っていたお客さんが、ビックリするぐらいの早口&罵詈雑言で他人を攻撃し始めたから――だけではなく、
その彼女の口撃で大の男3人が二日三日は立ち直れないであろう精神的ダメージを負った現場を直接その目で目撃したから――だけではなく、
そんな彼女が言った放った“キッツイ同人誌 (もちろん十八禁)”の内容が気になってしまった自分に嫌気がさしたから――だけではなく、
*
「ちょっと八千代ちゃん、あのひとたち止めて来てくれない?」
「そうよ、ヤッチお願い」
*
と、この店のオーナー並びに厨房係にお願いされてしまったからなのであった。
*
「ええ?!ここは美里さんがお願いしますよ」と、ウェイトレスは言ったのだが、
「いやよ、かよわいもの、わたし」と、オーナーが返して来たので、
「だったらエマちゃん、いっしょに行こうよ!」と、こんどは厨房係の少女に向けて彼女は言った。
が、しかし、その厨房係の同級生も、
「いやよ、わたしはあくまで厨房係だもん (注6)」と、にべもなく返して来た。「ヤッチならきっと大丈夫よ」
「そうそう。八千代ちゃんはお客さん受け良いし」
「わたしと違って愛嬌あるし」
「ほらほら、他のお客さんが立ち去る前に」
「いつもオジさんたちをあしらってる感じでよろしく」
「ええ……」
(続く)
(注1)
もちろん。彼の性別は男性なので、男の格好をした彼の姿が男装に見えるとしたら…………それは見えるほうに問題があるのでは?
(注2)
『LOVERS (原題:十面埋伏)』もそうだけど『グリーン・デスティニー (原題: 臥虎蔵龍)』や『女帝 (原題:夜宴)』のころの彼女の美しさは異常だと想うし、『グランド・マスター (原題:一代宗師)』での彼女は本当にかっこよかったと想う。
(注3)
今回の事件が落ち着いたあと、ふたりで実際にネームにまでは起こした。
(注4)
第三話“その8”並びに“その9”を確認の……っていうか第二話“その4”でもサイコパスっぽいって言われてましたね、やれやれ。
(注5)
いや本当、第二部は彼とジョセフ二人のお話だったと言っても過言ではないと想うんですよね。
『友人が殺されたのだッ!目のひとつぐらいでへこたれるかッ!!』とか、
『おれの血統の問題だ!ツェペリ一族の問題なのです』とか、
『オレだってなんかしなくっちゃあな……カッコ悪くてあの世に行けねーぜ……』とか、
あーもう、アカン。想い出しただけでお姉ちゃん涙出て来てまう……。
でさあ、それでまたさあ、第7部でジャイロの本名が“ユリウス・カエサル・ツェペリ”って分かったときの衝撃ね。
時代的にジャイロはあの世界でのツェペリ男爵なのかな?でもシーザーっぽくもあるよな?って想ってたところに「カエサル (=シーザーの語源)」でしょう?ああ!もう!荒木先生!神!!ってなってたらあの後のあの展開じゃない?もう、ね、オバちゃんは (以下略)
(注6)
ちなみに。これもまったくの余談だが、この厨房係の彼女は自分でもイヤになるぐらい男の子に間違われることが多いため、接客関係はもっぱら赤毛の同級生に任せることにしているのである。
というかもっと言うと、第一話“その1”で伊純さんが一瞬目を奪われていた“ウェイターのお尻のライン”とは、たまたま客席を手伝っていた彼女のお尻のラインだったりする。




