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第三話:江崎と森永(その10)

「で、結局それが結論なんですか?」


 と、すっかり冷え切ったアンチョビ・ピザを食べながら森永久美子 (24)は訊いた。


 私用と飲み物の買い出しですっかり合流が遅れた彼女は、おかげで樫山家の兄妹ゲンカに巻き込まれることも見物することもなかったのだが、その声の調子にはハッキリと『バッカじゃなかろうか?』という感じが含まれている。


 すると、そんな彼女の質問に、


「だってしょうがないじゃない」と、問題の兄妹喧嘩を砂被りで見ていた佐倉伊純 (29)は答えた。「ほかに落ち着かせどころがなかったんだからさあ」


 すると今度は、


「そうだぜ、グリコ」と、首筋の湿布も痛々し気な三尾漱吾 (31)が「この部屋の惨状見てみろよ」と言って残ってたピザを口に入れた。「よくまあアレをなだめたなってほめて欲しいぐらいだ」


 まあ確かに。


 なにをどうすればこうなるのかは分からないが、


 イスは倒れ、


 カーテンは外れ、


 ソファの柄は流れる血よりも赤い赤へと代わり、


 網戸からはブヨや蚊が入り込んだと想ったら、


 テレビはスペイン語放送になったまま戻ってくれず、


 天井からは天使も真っ青の真っ白な羽根が降って来た――かと想ったら、


 プチン。


 と、こんどは台所の電気も切れてしまった。


 ――なんだかなあ。


「たしかに、いったい何があったのかはまったくもって想像も付きませんけど――」と、コールスローのうえに落ちて来た天使の羽根をよけながらグリコ。「それで肝心のおふたりは?」


「お兄さんはお家に戻って」


「詢子ちゃんは真琴がなだめてる」


「まあでも、先輩もいろいろと――」


 と、ここでグリコは“同類相憐れむ”というか“同じ穴のムジナ”というか“狼は互いに食わず”的精神でもって詢子に同情の意を表そうとしたのだが――、


『でも、流石にこれはやり過ぎですよね』


 と、一般社会人的人格による一般社会人的理性を働かせると、


「……まあ、先輩ですし」


 と、敵にも味方にも毒にも薬にもならないような言葉でお茶を濁すことにした。


「で、それで――」と、リビングの収納棚を掘り返しながら伊純。「出た結論はそういうことなのよ、結局」――たしか前にこの辺で見たんだけど。「どうせ“産みの苦しみ”なんて当人にしか分からないんだからさ」


「はあ」――いや、私も“お手伝い専門”なんでよく分からないですけど。


「で、自分で解決するしかない部分は自分で解決してもらうことにして」――ああ、あったあった。「ちょっと漱吾、台所の電球換えてくれない?」


「俺、首が痛いんだけど――」


「私やグリコじゃ届かないのよ」


「しょうがねえなあ――」


「はいはい。やっぱ男手よね――」と、イスを準備しながら伊純。


「で、自分ひとりよりも他人のアドバイスとかお手伝いとかでなんとかなる部分は、他人の力を借りましょうよ、と」


「はあ……」――確かにその通りではあるんですけど。


「なのでね、グリコ」と、古い電球を受け取りながら伊純が言い、


「江崎くんへ紹介する話、うまく取り持ってくれよ」と、新しい電球を取り付けながら漱吾は言った。「――よし、点けてみてくれ」


 パチ。


 という音がして、台所周辺が不意に明るくなったので、


『ああ、そうだった』


 と、このお話の作者は想った。


『そもそも、その話をしていたんだった』



(続く)

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