ボーナス・トラック:きみの名前と逃げ出した花嫁(その6)
(これまでのあらすじ)
なんとなくそうなんだろうなあ?とは想っていたけど、やっぱりタイムパトロールの組織運営は従業員に対して優しくはなかった。
*
「まあそれでも、存在そのものを消されちゃったり、記憶はそのままで動物に変えられちゃったりする隊員もいますから、お給金のことであんまりゴチャゴチャ言うのも――」
そう赤毛のタイムパトローラーは言うのだが――ライリーさん、それ本部に洗脳され過ぎ。
「まあ、当人たちが納得ずくなんやったら部外者のあたしが言うこともあんまないけどさあ――」
と、こちらは我らが時の女神さまだが――あなた、TPの技術顧問とかしてませんでした?
「――そだっけ?」
――本部整備部の緊急連絡シートにあなたの名前が載ってましたよ。
「あー、それでときどき工場の人から相談の電話が来るんだ」
――顧問料とか相談料とか取ってないんですか?
「そんな立場にあるって知らんかったからね。工場からの相談もアイスの友だちってことで答えてた――あれ?あの子は?あの子もパートなの?」
と、ライリーの方に向き直りながらの女神さまだが、この彼女の質問には、
「アノ博士ナラ正隊員ダヨ」
と、次のゲームコースとドライバーを選びながらクラゲオバケが答えた。
「ムカツクカラ聞イタコトナイケドサ、おぜぜモ一杯モラッテルラシイゼ」
「まあ、その分サービス残業も多いようですけどね」と、こちらはライリーさんで、
「あー、あの子、何気にマジメやもんね」と、こちらは懲りずにマリカー参戦しながらの女神さま。「結婚後は?仕事続ける言うとった?」
「辞めさせて貰えませんよ、そんなの」と、先ほど閉じた『すて奥』を開きながらの赤毛。「TPですもん」
「足抜ケスルノモかね次第ダモンナ」――今度ノきゃらハ“ろぜった”ニシヨ。
「でも旦那んとこ、お金なら腐るほどあんじゃん」――じゃあ、あたしピーチ姫な。
「そこもまた政治的な駆け引きが――」と、ライリー女史。一瞬の間を置いてから、「ひょっとして、お婿さんの方もご存知だったりします?」と、女神さまに訊く。
「うん。アレが小さいころにちょっとね (注1)。ジイさんとも仲良かったし――そういやあのジジイに貸した20ダダン (注2)、まだ返してもろうてなかったな」
「……結婚式の招待状って届きました?」
「………………………………あれ?」
*
From:hatu-tyan9241 @ gaagre.me.jp
To:nakakita4373 @ vaho.cd.jp
件名:Re: 緊急のご連絡。
本文:
柳瀬敦史さま
お世話になっております。
ご返信が遅れ申しわけありませんでした。
と言うのも、懇意の業者に最近の泰仁くん
宅の状況を訊いていたからなのですが、な
んと驚いたことに、この数週間、樫山家に
あの“妙子さん”が泊まり続けているとの
情報を入手してしまいました!!
添付は、その業者がたまたま撮ったという
買い物中の二人を捉えた写真ですが、一本
の焼き芋を分け合って食べるその姿に、私
などは今は亡き妹夫婦を想い出し涙してし
まうほどでございました。
これは是非、こんどこそは、妙子さんを泰
仁くんのお嫁さんにお迎えしなければなら
ないのではないでしょうか?
以上。
私の方は、近日中にでも泰仁くんの家まで
出向き、妙子さんにお話を訊いてみようか
と考えております。
敦史さんもご一緒に如何でしょうか?
須賀一美
*
ブー、ブー、ブー、ブー、
ブー、ブー、ブー、ブー、
ブー、ブー、ブー、ブー、
ブー、ブー、カチャ。
「はい、マクミラン……ああ、ライリーさん。どうしたの?電話なんて珍しい。
……え?キム博士なら結婚式の準備でしばらく出て来れないらしいけど?
……そうそう。古い家だからね、いろいろと大変らしいわよ。
……まあ、仕事自体は離れててもやれるから、時間見付けてちょこちょこやってるみたいだけど。
……そうそう。昨日も仕事のついでに話したんだけど、ドレスの採寸だけでも泊まり込み仕事らしいわよ、やっぱデカいお家は違うわよね。
……招待状?ええ、来てるわよ。え?ひょっとしてライリーさんのところに……ああ、ちゃんと行ってるのね……、Bのところにも。
……まあ、花婿側の人数がバカみたいに多いから本部の全員に送ってるっぽいし、余程のひと以外には送ることにしてるんじゃないかしら――」
(続く)
(注1)
詳しい話は、拙作『西方烈風、臥鳳蔵凰』に書いておいたので、気になる方はそちらをご確認下さい。
(注2)
2022年10月現在のレートで、1ダダンは約2ボル。我が邦の通貨に合わせると約100円。




