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第二話:妊婦と妻と元恋人(その8)

 あ。


 忘れる前にいちおう補足しておくと、


「山岸さん家の三姉妹」第一の刺客こと安堂茄子さん (34)も、もちろん真琴くんと同じ東京生まれの東京育ちで、生粋の関東人 (現住所は千葉県勝浦市)だったりします。


 だったりしますが、大学の四年を京都で過ごしたんがアカンかったんか、いまでも関西弁が抜けん感じになっておられます。


 いやはや、気に恐ろしきは“京の茶漬けと高松の熱燗”とはよう言うたもんで……って、これはまた別の話ですな。


 えーっと、で、なんの話やったかいな……ああ、そうそう。


 せやさかい、このあと茄子さんがへんな関西弁使うてしもうたとしても、そこはそれ、作者のミスいうよりは、右に書いたような事情があってのことなんやなあ……そう想うてもろうて、大目に見てやってくれませんかなあ?


 ――よう知らんけど。


     *


「なら、あの子ども向けアニメも先生の?」


 と、自宅から“えっちらこっちら運んできました”というナスとピーマンを丁寧に水洗いしながら茄子が言い、


「正確には、僕の原作をもとに他の人がアレンジしてくれたんですけどね」


 と、シンクの引き出しから各種調味料 (砂糖、醤油、鶏ガラスープの素)を取り出しながら樫山は応えた。


「うちの6才になる娘がアレの大ファンでして」


 ――ナスはヘタ取ってくし切りにしますね。


「あー、それはうれしいですね」


 ――片栗粉と豆板醬は冷蔵庫にあったハズなんだけど。


「そしたらあたしもつられて見るようになったんですけど、あの金髪のひと、面白いですなあ」


 ――ピーマンは……マコトさんもおるし、ちょっと“大きめ”に切ったろ。


「原作でもハチャメチャなんですけど、アニメにするとき監督が暴走しまして」


 ――あ、ニンニクはチューブでも良いですか?


「ええ、はいはい、手間が減って助かります――で、娘もあのひとのファンらしゅうて、旦那のラチェットレンチ持ち出しては怒られてます」


「あー、アレはですね、グッズ展開も考えたらしいんですけど、国営放送でしょ?ストップがかかったそうで――」


「いやいやその方がエエですよ、イトコんとこの子なんかは何とかライダーとかプリ何とかとかにはまってまして、ジジババの出費が大変な――」


 ――あ、いちばん大きなフライパンかしてもらえますか?


     *


「ああ、こいつは美味そうだ」と、テーブルのうえを片付けながら漱吾が言い、


「いやいや、適当に切って炒めただけですから、お口に合うかどうかは分かりませんけど」と、食事を運びながら茄子が返した。「ほらマコトさん、アンタもしっかり食べんとアカンよ?」


     *


 ということで。


 本日の夕食は安堂茄子特製『豚なすピーマンのピリ辛みそ炒め』と相成ったワケであるが――、


「あのさ、姉さん」と、自分の前に置かれた皿を見つめながら真琴が言った。


「なに?」


「ピーマンなんだけどさ」


「ピーマン?」――チッ、気付かれたか。


「苦手なの知ってるよね?」――ぼくのだけ異様に多いんですけど?


「あら、そやった?」――いいえ、皆さん均等です。


「子どものころ、ジンマシン出てたろ?」――だって、全面みどり色だよ?


「大丈夫、大丈夫」――もう大人なんやさかい。


 と、ここまで言うと茄子は、そのほそながい顔に満面の笑みを浮かべてから、


 パンッ。と手を合わせると、


「はい。それでは皆さん」


 と、一瞬にして場の空気を領しながら、


「いただきます」


 と言って、おおきく笑った。



(続く)

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