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第二話:妊婦と妻と元恋人(その2)

 さて。


 どういうわけか、世界中のどこに行っても陰気なバーガーショップというのはあるもので、時にそれは、駅前の一等地と呼ばれるような場所に何故か立っていたりなんかする。


 もちろん。


 世界中にあるバーガーショップのおよそ9割はチェーン展開のバーガーショップなワケで、そこの明るく楽しく元気の良いピエロやゆるキャラや輝かしいばかりの笑顔を見せてくれるキャストたちのおかげで、客たちは大変気分よく迎え入れてもらえるし、チェーン店なので、その店のしつらえや店構えなんかが陰気さをかもし出しているワケでもない。


 彼ら彼女らは大変よくやっているし、エリア戦略とかマーケティング戦略とか出店戦略とか言ったものも十分過ぎるほど十分に練られたうえで、その地に店を構えていたりいなかったりする。


 なので……と言うか、しかし……と言うかは意見の分かれるところであろうが、何故かそんなバーガーショップで食事を取る人々は、いかにも楽しそう、ではないが、大変うんざりして、でもない、そんな“こういう時、どんな顔をすればいいかわからないの――”的な態度と表情で食事をすることになってしまっていたりする。


 多分、そういう陰気なバーガーショップで食事をすることで、我々人類はその犯した罪の償いをしているのでもあろう。


 でも、まあ、もちろん。


 そんな人類が犯した罪がどのようなものかは知らないし知りたくもないし知ったところで店を出るころにはどうせ忘れてしまっているから関係ないような気もするが、しかしそれでも、その罪は、そんな場所でハンバーガーをむりやり食べることで十二分に償われていると考えてあげても良いんじゃないですかね?


 ――ねえ?神さま?


     *


「ねえ、ほかの店にしない?」


 と、ある年の冬、中谷あきらはそう言った。


 すると、この問いかけ――と言うか忠告を与えられた山岸真琴は、


「時間がないよ?」と言いながら腕時計を見つめ、


「三十分で映画がはじまっちゃう」と続けながら、店のなかへと入って行った。


 そうして、それからふたりは、笑顔のすてきな女性店員から二人分のハンバーガーとLサイズのポテトと、なんとかとか言う期間限定のシェイクを受け取ると、店のすみのがたつく小さなテーブルに着き、“いかにも楽しそう、ではないが、大変うんざりして、でもない”そんな態度と表情で、その日の夕食を済ませた。


     *


「バカか?お前は」


 と、そう言ったのは三輪漱吾 (31)である。


 彼の右のこめかみには、どうやれば付くのだろうか、スモークサーモンサンドのアボカドディップが、まるでなにかの魔除けかお札のような格好で付いている。


 すると、それを見付けた山岸真琴 (28)は、手にしたおしぼりでその魔除けなりお札なりをどうにか消してしまいたい衝動に駆られていたのだが、当の漱吾本人が食後のデザート選びに真剣この上ない表情で取り組んでいたため、どうにかこうにかして、その衝動をおさえ込むことにした。


「映画と美味いもんとどっちが大事なんだよ?」と、漱吾。「と言うか、○○駅の△△バーガーだろ?そりゃ彼女さんが正しいよ」


「でも、マズくはないですよ?」と、弁解気味に真琴。


「美味くもないだろ?」と、漱吾。――よし、“紅茶と小豆のシフォンケーキ”にしよ。


「でも……チェーン店なんてみんなそんなもんでしょ?」


「バカ言うな、同じ△△バーガーでも◇◇通りのは美味しいぞ?」


「……そうですか?」


「そうだよ――あ、八千代ちゃん!」


 そう言って漱吾はお店のウェイトレス (赤毛・長身)に声をかけると、“紅茶と小豆のシフォンケーキ”を追加注文した。


「小豆と生クリーム多めにのっけてもらえる?――ダメ?そこをなんとか頼んでみてよ?ね?美里さんなら良いって言ってくれるって――うんうん。ダメモトで良いから。……あー、ありがとう」


「……太んないんですか?」


 と、去って行くウェイトレスのうしろ姿を見つめながら真琴。


 この二週間、何度かこの人と食事をいっしょにしたけれど、その食欲には驚きを通りこして呆れるものがある。


「あー、運動もしてるし、体質なんだろうな、全然」


「運動?」


「公園歩いたり、ラジオ体操やったり」


「はあ」――おじいちゃんみたいですね。


「ま、伊純や詢子ちゃんにしてみたら“そんなの運動に入んない”らしいけど…………あ、そういやオマエ、詢子ちゃんとはどうしたいんだ?」


 と、ここで突然、四秒程度――と、止まった時を数えるのも奇妙な話だが、真琴以外の時が止まった。


「へ?」


 と、せっかく止めた時のなかで思考回路も止めてしまう真琴。


 まあ無理もないことかも知れないが、この漱吾という男は、何も考えてないように見えながら実際なにも考えてはいないのだが、こと他人が隠そうとしている恋愛関係の悩みやカフェやレストランの新メニューを見つけることに関しては一種の念視能力のようなものを発揮することがあったりなかったり、なかったりあったりなんかする。


 なので、そんな彼の能力の一端をとつぜん垣間見せられた真琴は、


「どどどど、どどどど、どっどーー」


 と、まるで子ども向けアニメの主題歌用に星野源が作曲したシングル曲でも歌い出しそうないきおいで動揺してしまったのだが、その分かりやす過ぎる態度が逆にすべてを物語っていた。


「気づかないと想ったか?」と、例のイケメンボイスになりながら漱吾。「お前が男だってわかった瞬間、俺にはすべて合点が入ったんだよ」



(続く)

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