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第八話:十九の春と二十九の春(その6)

「というか、坪井さんも一緒だったんなら、電話でそう言って欲しかったなあ」と、山岸真琴 (28)が、エレベーターのボタンを押しながら言い、


「だってカギを借りるだけのつもりだったんだもの」と、その姉・鷹子・カスティリオーヌ (38)は応えた。「ほんと、別に“お宝探し”とかするつもりもないわよ?」


「“お宝探し”?」


「エッチな本とかDVDとかパソコン検索履歴とか――あなた今でも (*検閲ガ入リマシタ)が好きだったりするの?」


「ね、ねえさん?!」


 と、ここで突然の性癖暴露となる検索キーワードをズバリ指摘された山岸真琴は当然、震撼・動揺・狼狽するのだったが、


 ポォン。


 と、そんな彼の混乱・惑乱などどこ吹く風のエレベーターがその到着を報せ、


「なによ、別に恥ずかしがることないじゃない。(*検閲ガ入リマシタ)が (*検閲ガ入リマシタ)とかしてる (*検閲ガ入リマシタ)なら流石に私も心配するけどさ――」


 と、のたまう鷹子に、まるで賛意を表するかのように、


 ピィン。


 というチャイムとともに、そのドアを開いた。


 それから鷹子は、


「ほらほら、乗った乗った」


 と、自分の言葉に打ちひしがれているハズの弟の背中を叩くと、今度は後ろを振り返り、


「ほらほら、東子ちゃんも」


 と、今夜のゲストの方を見た。――見たのだが、なにやら彼女は彼女で顔を真っ赤にして唇を真一文字に結んでいる。


「え?ゴメン。なに?」


 と、そんな彼女の様子にちょっと驚きながらの鷹子。


「ひょっとして、(*検閲ガ入リマシタ)とか (*検閲ガ入リマシタ)とか (*検閲ガ入リマシタ)とかで赤くなっちゃってんの?」


 するとこの彼女の質問に、


「え、あ、は、はい」


 と、問題の坪井東子 (30)は狼狽すると、


「まさか、いきなり普通に出て来る単語だとは想ってもいなかったもので――」


 と、問題の単語たちとエレベーターに乗り込む山岸真琴のキレイなご尊顔を重ね合わせながら答えたのだが…………いや、別に真琴くんがそーゆー性癖の持ち主ってワケじゃあ…………ないかどうかは、それはこの作者も知らないワケだけれども。


「ごめんごめん。まさかこれ位で赤くなるとは想ってなくてさ――」


「あ、いえ、虚を突かれただけですから――」


「もうもう、東子ちゃん、カワイイわねえ」


「ごめんね、坪井さん。この人こーゆー人なんだよ――姉さんもさ、あんま坪井さん困らせないでよ?先輩に怒られるのはぼくなんだから」


「え?」


「なに?」


 と、ここで鷹子は、少し考えを巡らせると、それでも少し腑に落ちない表情のまま、


「あれ?」


 と言ったのだが、すぐに、その先の言葉は飲み込むべきだと判断したのだろう、エレベーターの行き先ボタンを押しつつ、


「あ、いや、そっか、そうよね」


 と、弟に向かって応えた。


「――というか、その“お兄さん”は今日はどうしてたの?」


「うん?なんか途中でお腹壊してトイレに入ってたみたい」


     *


「あれ?漱吾や山岸は?」


 そう言っていつもの『シグナレス』のいつものソファに戻って来たのは、原因不明の腹痛に襲われた“お兄さん”こと樫山泰仁 (31)であるが――、


「お兄さん、大丈夫ですか?」と、先ずは佐倉伊純 (29)が心配そうに訊き、


「なにか変なものとか食べたんですか?」と、こちらも心配声の森永久美子 (25)が続け、


「漱吾はお父さんと買い出し。真琴さんは鷹子さんが来るからって帰って行ったわよ」と、兄の不調をなーんとも想っていない感じの樫山詢子 (27)が応えたところで、


 ピロン。


 とばかりに、泰仁のスマートフォンへメッセージが届いたのだが、そこには――、


『ヤッホー!!』


 の一文とともに、坪井とのツーショット写真を撮る鷹子の姿――ひと昔前のギャルみたいですね、お姉さん――があった。


 ってなワケで、


「どしたの?兄さん?」と、ふたたび軽い感じに詢子が訊き、


「顔、蒼くないですか?」と、ふたたび心配声でグリコが続け、


「もっかい行った方が良いんじゃないですか?トイレ」と、優しい声の伊純くんが言ってくれたところで、


 キュるん。


 と、彼の胃袋も賛意を表したので、


「そ、そうだね――」


 のひと言とともに、ふたたび痛んだ胃袋と一緒にお手洗いへと駆け込む泰仁の姿が見られることになるのであった。


 すると、そんな彼のうしろ姿を目で追いながら、先ずは伊純が、


「お兄さん、ほんと大丈夫かしら?」と言い――やさしいなあ。


「もともとお腹弱いひとですもんね」と、こちらも心配声のグリコが続け――やさしいなあ。


「ってか、今夜のごはんどうする?」と、こんな兄の様子をまーったく気にしない様子で詢子が言ったのであった。――いつか見てろよ。


     *


 さて。


 ナンヤカンヤのテンヤワンヤのスタコラサッサのハワワワワーーの後、中野弥生町の豪邸へと引っ越すことになった我らが楽しい三尾一家であるが、その豪邸の元の持ち主――つまりは三尾直克の大伯父――の遺言により、彼らはそこで“最低十年は、一家全員仲良く一緒に暮らすように”ということになってしまっていた。


 そのため。


 漱吾の4才上の長男なんかは、ある日ある夜、


「じゃあ俺、26才になるまで家出れねえのかよ?!」


 と、改めて父に訊いたし――初めての彼女との“初めて”をどうしようか悩んでたんだって。


 また、


 漱吾の2才上の長女なんかも、これまた別のある日ある夜、


「じゃあなに?わたし24才までお嫁に行けないの?」


 と、こちらも改めて母に訊いた。――なんかその頃付き合ってた彼が結婚願望の強いひとだったんだって。――結局、相手の浮気が原因で別れたけど。


 すると、そんな青春真っ只中の彼&彼女らの問いに、そんな彼&彼女らの母・千枝は、


「仕方ないでしょ?お金のためなんだから」


 と、まるでヴェニスのシャイロック的トーンで答え、


「いや、嫁に行く分には良かったんじゃなかったっけな?」


 と、彼&彼女らの父・直克は妻の言葉を補足しようとした。


 丁度この時、彼の妻・千枝は、豚の足&軟骨 (煮込みます)をダダン、ダンダ、ダン。とぶった切っていたところだったのだが、その鋭い中華包丁の切っ先を夫に向けると、


「あんた、それはホントの話かい?」


 と、もしそれがウソででもあれば、彼の胸肉1ポンドを切り取ってやらんとばかりに訊いた。


「ああ、確か大丈夫だったと想うぞ」


 と、そんな妻を愛しく想いながらの (?!)直克。 


「間違ってたら大ごとだからね、弁護士さんにキチンと確認してよ」


「はいはい。分かってるよ」


「っていうか、千佳子。あんた24才までに結婚出来る当てでもあんのかい?――男捨てたり男逃がしたりを繰り返しててさあ」


「ちょっと母さん、結婚ってなったら話は別よ。――キチンとつかまえて見せるし、キチンと添い遂げてみせるわ」


 と、まあ、そんな感じでここの会話はおわることになった。


 なったのだが、この時の予言なり誓言なりが効いたのでもあろうか、三尾漱吾の姉・千佳子はこの後――、


     *


一.先ずは、二十歳で結婚。


二.それから、二十二歳で子連れ離婚をし、


三.その後、二十四歳でふたたび結婚。


四.と想ったら、二十八歳でふたたびの子連れ離婚をし (子どもは二人増えて三人の子連れ離婚)、


五.三十歳の時に三度目の結婚話が持ち上がったものの、


六.これは突然男が逃げてご破算。


七.三十三歳になった現在は、川崎市は新百合ヶ丘の実家……というか両親の家に絶賛居候中である。


     *


 え?


 ああ、そうそう、そうなんですよ。


     *


 時に西暦2010年。


 晴れて大伯父との約束を果たした直克&千枝夫妻は、中野弥生町の豪邸を後にし――もう一回べつの所で五年ほど暮らしてから――川崎市は新百合ヶ丘へと引っ越すことになるのであった。



(続く)

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