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第七話:コペンハーゲンと小さな青い箱(その6)

「ってか、なんでアンタが知ってんのよ?」


 と、そう言ったのは、延々とピスタチオの殻を剥いては実と選り分け続けている佐倉伊純 (29)であり、


「百合子さんから電話で聞いた」


 と、そう答えたのは、その実に手を伸ばしては、ペシン。と伊純に手を叩かれている三尾漱吾 (31)である。


「――てか、食べねえんならくれよ」


「あとでまとめて食べるの。――アンタこそ自分で剥きなさいよ」


「俺、苦手なんだよね、こういう細かい作業。――その点お前は向いてるよな、こういうの」


「料理人なめないでよ?毎日何個ジャガイモ剥いたりタマネギ刻んだりしてると想ってんの?――一種の職業病みたいなもんよ。ついついまとめて剥きたくなっちゃう」


「お?なんかエッチな言い方だな」


 と、ここで一瞬、この漱吾の発言にテーブルの一座は固まりかけたのだが、直後、その発言の主が“三尾漱吾”であることを想い出すと、皆一様に無視を決め込んで、


「――で?百合子さんって誰だっけ?」


 と、先ずは伊純が、


「ほら、あの人ですよ。真琴さんの元恋人の現恋人の――」


 と、続けて森永久美子 (25)が――こちらも漱吾のことを空気だと思いつつ――言い、


「まあでも、“恋人”よりは“妻”と呼んで貰いたいらしいけどね」


 と、樫山泰仁 (31)が――『女性陣の前での発言には注意が必要だな』と改めて肝に命じながら――補足をした。


 なので伊純は、


「ああ、要は赤ちゃんのもう一人のお母さんですね」


 と、返したのだがついでに、


「てか、なんでお兄さんまでそんなに詳しいんですか?」


 と、普通に抱くであろう疑問を口にした。


 すると、そんな質問に対して樫山が、


     *


一.“赤ちゃんのもう一人のお母さん”こと佐々木百合子女史 (27)は絶賛絶版中の樫山作品『英國騎手物語:蒼穹のアリシア』の熱心なファンである。


二.自分はその話を漱吾経由で知ったのだが、百合子さん側の希望もあり、一度『シグナレス』でお会いした。 (注1)


三.その時百合子さんから、某SNSに――大変ひっそりとではあるが――『アリシアファンの集い』なるコミュニティがあることを教えてもらった。


四.で、そのコミュニティに自分も入って“作者登場!”的なことをやろうか悩んでいるんだがどうだろうか? (注2)


五.というか伊純くんと漱吾には初版本を謹呈したハズだがまだ感想をもらってなかったよね?


     *


 ……みたいなことを長々と話し始めたので、三.の途中で一同は『早く終わらないかな?』と拱手傍観の体に移行し、五.が始まった辺りで『やべ、読んでないのがバレる』と伊純と漱吾が想ったので――、


「それで結局、どっちなのよ?」


 と、先ずは伊純が、


「あ!やっぱ知りたいか?!」


 と、次に漱吾が言い、


「もちろん知りたいわよ!はやく教えて!」


 みたいな感じに、見事話を元に戻すことに成功した。


 なので――、


「グリコも聞きたいでしょ?」


 と、話を『アリシア』に戻したがっている樫山を無視して伊純が言い、


「あー、たしかにちょっと知りたいかも」


 と、『お兄さんも気の毒に』と想いつつのグリコが続け、


「だろ?出て来るまで“ニ○ジャスレイヤー”にしておく必要ないもんな」


 と、漱吾も応えた。


「なんてったってオレ、伯父さんだもんな」


 ――何度も言うけど、“伯父さん”ってのは間違いだからね?漱吾くん?


「“ニン○ャスレイヤー”?」


 ――あ、そこは繰り返すと長くなるので流して、伊純さん。


「だったら、よし、じゃあ先ず伊純。耳貸せよ」


 と、両手で筒を作りながら漱吾。――ゴニョゴニョゴニョ。


「――なんだってさ、いやあ、悩むよなあ、名前」


「え?え?どっちなんですか?」


 と、こちらは伊純のほうに身を乗り出しながらのグリコ。


「うんうん。じゃあ、グリコも耳貸して」


 と、こちらも両手で筒を作りながらの伊純。――ゴニョゴニョゴニョゴニョ。


「――なんだって!もうもうもう!」


「あー、それは真琴さんも嬉しいでしょうね」


「でしょー?ああ、もうもうもうもう、私も伯母さんになっちゃおうかしら?」


 ――だから、“伯母さん”ってのも間違いだからね?伊純さん?



(続く)


(注1)

 第六話“その3”を確認のこと。

 キレイなお姉さんがファンだったんで鼻の下伸ばしっぱなしでしたね、樫山先生?


(注2)

 ファンの夢が壊れるからやめといたほうが良いよ、先生。

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