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第七話:コペンハーゲンと小さな青い箱(その2)

「コペンハーゲン?」と、三尾漱吾 (31)は訊くと、訊いたら余計にワケが分からなくなって来たので更に、「――コペンハーゲンってなんだっけ?」と、追加で質問をくり返した。


 するとこの質問に対して、彼の真向かいに座っていた樫山泰仁 (31)は、『どこから説明すれば伝わるだろうか?』と、この頭は悪くないのに時々どーしようもなく頭の悪くなってしまう友人の、その頭の悪さ加減を見極めながら答えを探していたのだが、そこに――、


「デンマークにある港町で、そこの首都ですよ――」と、彼の左隣りに座る森永久美子 (24――じゃなかった25)が彼の代わりに答えて言った。


 ここは、いつもの詢子さんのいつものマンションのいつものリビングであるが、いつもとちょっとちがうのは、ベランダ窓の近くに小さな丸テーブルが置かれていることであり、そこにいつものメンバー――中の3人が向かいあって座っていることである。


「デンマーク?」と、ふたたびの漱吾。「――デンマークってなんだっけ?」


「私も詳しいことは知りませんけど――」と、こちらは見事な手さばきでトランプカードを切りながらのグリコ。「前にお兄さんが貰って来てた“ウナギの燻製”――あれって確かデンマークでしたよね?」


 すると、こちらはこちらでチップの数をかぞえながらの樫山が、


「そうそう。知り合いから――どうやって持って来たかは謎なんだけど――貰ってね」


 と、応えた。


「ああ、あのウナギは美味かったな」


「あ、それにそうだよ、漱吾の好きなビールメーカーもデンマークだ」


「……アサヒが?」


「――なワケないだろ」


「青島ビール?」


「――名前で違うって分かるよな?」


「クアーズ?」


「――それはアメリカ」


「バドワイザー?」


「――それもアメリカ」


「…………キリン?」


「――ワザと言ってるのか?」


「だったら分かんねえよ」


「“カールスバーグ”ってよく飲んでるじゃないか」


「あー、緑の。――あれも美味いよな」


「そうそう」


「……え?でもそれとポーカーとどんな関係があるんだ?」


 ――あ、ごめん、漱吾くん。そっちは全然関係なかった。


 するとここで今度はグリコが、


「あ、そう言えば、そこは私もぜんぜん――」


 と言いながらカードを切る手を止めたのだが、そこでふと想い出したかのように、


「せんぱーい。まだですかーー?」


 と、台所でなにやらツマミの準備をしている樫山詢子 (27)に声を掛けた。


 すると、


「ごめーん。もうちょっとー、すぐ行くーー」と詢子は返し、


「あ、で、その辺は私もよく分からないんですけど」と、樫山のほうに向きなおりながらグリコは続けた。「コペンハーゲンとポーカーにどんな関係があるんですか?」


     *


 さて。


 突然だが、この広くて長い長い宇宙の歴史の中には、『ごめん、それってなんの冗談?』と鼻で笑われてもおかしくないくせに、鼻で笑うどころかそのせいで血で血が洗われたり、惑星ごと他星の種族にうばわれてしまうようなゲーム――ギャンブルというものが存在したりなんかしたりする。


 有名どころでは“無間亜空間ジャンケン”や“スーパーギャラクティカ脱衣麻雀”などがあるが、そんな中でも特に『バッカじゃないの?!』と想われているゲームのひとつに“コペンハーゲンポーカー”はある。


     *


「“コペンハーゲンポーカー”?」と、漱吾とグリコが同時に訊き返し、


「そう。“コペンハーゲンポーカー”」と、グリコからカードを受け取りながら樫山が応えたところで、


「なによそれ?」と、ようやく席に着いた詢子が訊いて来た。「ダービー (兄)とかが関係して来たりする?」


 ――いや、さすがにあんな魂の賭け合いまではしないけどさ。


「普通のポーカーのルールは――詢子以外はみんな知ってるよな?」 (注1)


 と、詢子の皿からピスタチオをひとつつまみながら樫山。


「で、ゲームの進め方自体は“セブンカード・スタッド”と同じなんだけど、問題なのはそこで使用されるカードでさ――」


     *


 と、ここで、この“セブンカード・スタッド”の部分で漱吾の頭のうえには大きなクエスチョンマークが出て来たのだが…………ま、漱吾くん同様どんなやり方かご存知ない方には、後ほどググるなりヤホーで調べるなりして頂くとして……そう。問題はそこで使用されるカードにある。


     *


「つまり、“コペンハーゲンポーカー”で使われるカードには、名前の由来となった『量子力学のコペンハーゲン解釈』が適用されることになるんだよ」


 と、まあ、まるで真っ当至極当然かのように樫山は言うのだが、ここで――、


「あー、なるほど」


 と、感心したようにつぶやいたのはグリコひとりで他のふたり (漱吾と詢子)の頭のうえにはさらに大きなクエスチョンマークがドンッと出て来ており…………うん。ちょっと補足しておこう。


     *


 さて。


 右で泰仁くんが言ったとおり、“コペンハーゲンポーカー”で使用されるカードには所謂『量子力学のコペンハーゲン解釈』が適用されることになる。


 なるのだが、それはつまり、


     *


一.誰の目にも触れない状態のカード表面 (数字や絵のある方)は、『シュレディンガー方程式』に従っている。


二.しかし、誰かの目に触れた瞬間、そのカード表面の数字や絵は一義的に決定される。


三.そうして、その数字や絵の検出確率は『ボルンの規則』に従う。


     *


 ……の三点を合意事項としたカードが使用されると云うことなのであるが――っと、ここで紙数も尽きたので、続きはまた次項。



(続く)


(注1)

 詢子さんのポーカーに関する知識は“ダービー・ザ・ギャンブラー”並びに“武装ポーカー”から得たものだけしかないらしい。


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