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はじめに:千駄ヶ谷ってどこだっけ?

 ものがたりを語るには、まずは時と場所が必要だ。


 それは例えば、


 “むかしむかし、あるところに……”でも良いし、


 “遠い昔、はるか彼方の銀河系で……”でも良いわけだけれど、


 具体的な時とか場所とかがわかっているのなら、そのあたりはきちんと書いておいたほうが良いだろう。


 なので、今回のものがたりの舞台については、


 “いまはむかし、とある世界の千駄ヶ谷で……”と書くことになるのだけれど、


 …………え?“千駄ヶ谷”がどこか分からない?


 あー、じゃあ、その辺の説明からお話を始めてみることにしましょうか?


     *


 さて。


 と言うことで、東銀河帝国帝国図書館所蔵『大銀河恒星マップ』は、その微に入り細をうがった構成が後世の詩人たちにも歌い継がれるほどに微に入り細をうがった、殺人現場のテーブルのうえにでも置かれていたら凶器とまちがわれても仕方がないほどの、大層大部な地図なのだが、その『大銀河恒星マップ』にも載っていないような僻地の、辺鄙で野蛮な宙域の、更に遥かなる奥地の、銀河のすみっこの、更にはしっこの地味な一角に、なんの変哲もないありふれた主系列星がある。


 で、そんな主系列星の周りには、その重力の直接的・間接的影響を受けながら公転する8個の惑星と5個の準惑星と、さらにそれらの周りを公転する衛星や多数の小天体等々があったりする。


     *


 え?


『“8個の惑星”というのは如何なものか?』


 まあ、そこはいろいろ言いたくなる気持ちも分からなくはないですが、今日のところはそういうことにしておいて下さいよ。


     *


 で……なんの話だったっけ?


 あ、そうそう。


 で、この8個の惑星の中でも特に色々と問題を抱えているのが、この恒星から数えて3番目の惑星で、そこの表面には水もあって、空気中には大量の酸素も蓄えられていたりして、多種多様な生命を育んでいたりするんだけど、これまたまったくなんの変哲もない、ありふれてパッとしない青と緑の惑星だったりする。


     *


 え?こんどは何ですか?


『“多種多様な生命を育んで……”と書いて問題はないのか?』


 あー、ねー、でもほら、その辺は“いまはむかし”ってことでお茶をにごしておきますんで、今日のところはそういうことにしておいて下さいよ。


 読者のなかにはまだの世代もいるし。


     *


 で……なんか話がそれるなあ……。


 で、えーっと、そうそう。


 で、まあ、その“色々な問題”については、いつかどこかで語るとして、この恒星系の中でも唯一生命の生存する (仮)この惑星の総面積は約5億平方km。


 しかもそのうちの約7割が海なので、この惑星の陸生生物たちは、残った3割の陸のうえを行ったり来たり、出たり入ったり、しあわせを感じたり感じなかったり、生きたり生きるのを止めたりなんかしながら、いまを生きていたりする。


 で、そんなせまっ苦しい陸のうえでも、特にせまっ苦しいのが、日ナントカとか呼ばれる、スッゲーでっかいカントカ大陸の東に位置するほそながい島国で、その中でも更にせまっ苦しいのがその国の首都であるなんとか京と呼ばれるエリアで、そのなんとか京の南西部――ちょっと前までは“豊多摩郡”なるチョーカッコウの良い場所に属していたナントカと呼ばれる町と、


『そんなモダンなエリアと一緒になるだなんて恐れ多い』


 と、やたら及び腰だった○○と△△という3つの町が合体して出来たホニャララというエリア――その一部が、今回のものがたりの舞台となる“千駄ヶ谷”である。


     *


 うん。


 自分で書いておいてアレだが、これで本当に場所の説明になっているのか?と、問われればまったくもって自信がない。


 なのでまあ、賢明かつ懸命なる読者諸姉諸兄におかれましては、


 “むかしむかし、あるところに……”なり、


 “遠い昔、はるか彼方の銀河系で……”なりが舞台なのだな、


 ……と、ご理解いただければ筆者としては十分である。


 で。


 と、まあそんな感じで。


 舞台の準備が出来たのなら、こんどは登場人物が必要だ。


 それも、出来ることなら悩みや問題を抱え込んだ人物のほうが良い。


 そのほうが物語が転がりやすくなるからね。


 で。


 まあ、そういうことで。


 いま私は、とあるビルの9階の窓辺から街行く人たちを物色しているワケなのだが、こういう時に限ってそれっぽい人物というのは見当たらないもので、こうしてパソコンを打つ私の手も止まりがちになっていて――、


     *


 コンコン。


 と、部長室のドアがノックされ、


「あのう、すみません」


 と、向学館文芸部所属・坪井東子 (30)が部屋にはいって来た。


「夕方に予定していた樫山先生との打ち合わせなんですけど――」


 するとこの時、同文芸部部長の本田文代 (54)は、二千年ほど前、他人に親切にしようとして木に釘付けにされたある男について想い出そうとしていたのだが、それを止めると、


「ああ、キャンセル?」


 と、この無駄に胸だけはある部下の言葉に反応して言った。


「今度はどうしたの?また宇宙でも救いに行った?」


「あ、いえ、今回はそういうんじゃないそうで――」と、坪井が返し、


「だったらネコの……フェ、フェン……なんだったっけ?」と、本田がつづけて訊いた。


「フェンちゃんですか?フェンチャーチ?」


「そうそう。そのイギリスかドイツの駅名みたいなネコちゃん?」


「あ、いえ、それでもなくて――」


「ああ、じゃあ、あの妹さん?――あの人、シスコンだから」


 と、まあ、所属作家を“シスコン”呼ばわりするのもどうかとは想うが、それでも、


『宇宙→世界→ネコ→妹→仕事』


 という樫山泰仁 (31)の優先順位をしっかりきっちり把握しているのだから、さすがは敏腕編集部長である。


 すると、この部長の推理 (?)に坪井は、


「あ、はい、それが――」


 と、少し言いにくい感じでもって答えようとして、それでもおしゃべり体質な彼女の口的にはいまさら動きを止めることも難しかったようで、結局、


「なんか、妹さんの旦那さんが男の方と駆け落ちしたらしくて――」


 と、彼女というか彼女の口は応えた。



(続く)

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