7話
「さて、ちょっと婆ちゃんの様子見てくるよ」
楽しい夕飯の時間も終わり、一息ついた頃。
そう言って男性はどこかへと行ってしまいました。男性の祖母ということは、子ども達から見れば曽祖母ということになりますか。相当お年を召しているご長寿さまですね。確か男性と一緒に畑仕事をしていたおじさまが「長老」なんて言っていましたっけ。
そんなことを思い出しながら背を見送っていると、奥さまが気を利かせてくれました。
「長老はこの村で一番長生きしてるんです。私が子どもの頃からおばあちゃんで、とっても物知りでした。質問したらなんでも答えてくれましたね。ゆうに100歳は越えてるんですよ」
「それは凄いですね。100歳越えとは」
食後の温かいお茶を出すついでに、気になっていたことを教えてくれました。そんなに長生きした人にわたしは会ったことはありません。様々な理由でその前に死んでしまうので。
……わたしの質問にも答えをくれたりするのでしょうか。
「では私は洗い物など済ませてきますね」
「手伝います。わたしも」
「こちらは一人で大丈夫です。それよりも──」
「おねえちゃん! あそぼ!」
わたしの白い旅装束の裾を引っ張っておねだりしてくる長女。随分と気に入られてしまったものです。悪い気はしませんし、これもこの家に置いてもらうための約束です。
「いいですよ。なにをして遊びましょう?」
わたしはにっこりと微笑んで頷きました。その姿を見て、奥さまも安心からの笑顔を浮かべながら家事に向かっていきました。
遊んでくれるとわかり、嬉しそうに長女は考えています。
「えっとね、えっとね……じゃあおままごとして遊びたい!」
「おぅ……」
確かに、女の子の遊びと言えばおままごと。覚悟はしていましたが、やはり実際にやるとなると、わたしの中でのハードルがグンと上がりますね。
なにせおままごととは、つまり家族ごっこ。わたしの経験を生かせない遊びなのです。
普通の家庭とは言えない環境で育ったものですから、それを再現した日には家庭崩壊待ったなしです。
「ダメ……?」
「い、いえいえ! やりましょう! おままごと!」
わたしの内心を正しく読み取ってしまった長女がしょんぼりとしてしまいました。子どもをガッカリさせてはいけません。ここは年上として、人生の先輩としての威厳を示さなければ!
「じゃあおねえちゃんはわんちゃんね! わたしがかいぬし!」
「まさかのペットでした?!」
子どもの考えていることはいつでも突拍子もないことを忘れていました。