6話
──夕飯時。
床に直接座り、おもちゃのように小さな机を前に食器を手にして美味しいご飯をご馳走になります。
「──そんなことがあったのか。偉いぞ美夕」
「うん!」
奥さまの口から今日の出来事が伝えられます。
今は被っていませんが、麦わら帽子の男性が長女の頭を撫でてあげていました。
加減を間違えた力強い手つきでしたが、それでも長女は嬉しそうに目を細めています。髪の毛がボサボサです。
男性はこちらに向き直り、小さく頭を下げました。
「旅人さんもありがとうございます。お陰様でだいぶ楽ができたと思います」
「いえいえ、お安い御用です。この程度であれば」
わたしはニコリと微笑みながら頷きました。
働かざる者食うべからずと言いますが、一宿一飯の恩とも言います。これで恩に報いることができるのならば、本望です。
「そうだ、ぜひウチの漬物を食べてってください。美味いと評判なんです」
「例の『なす』とか『きゅうり』とか言うやつですね。実は気になっていました」
男性のお宅にお邪魔させていただく決め手にもなりましたね。
旅をしていて思ったのは、もっとも地域差が現れるのは食べ物関係。つまり旅をする際は食べ物さえ抑えておけば、その地域を堪能できていることになる、というわたしの持論です。ぜひ参考にしてみてください。
男性と奥さまがアイコンタクトを交わし、席を立った奥さまは新たに器を持ってきてくださいました。
「……これが、つけものですか?」
そこにあったのは、泥が付着した萎びた野菜。
畑仕事をしていましたし、野菜であることはなんとなく察しがついていましたが、まさかこんなビジュアルだったとは……。
きれい好きのわたしからは程遠く、縁の無さそうな食べ物でした。本当に食べられるものなのですか、これ?
そんな思いが顔に現れていたのか、男性は小さく笑いました。
「初めて見る方はだいたいそんな反応です。安心してください、ちゃんと食べられますよ。ほら」
そう言うと男性は緑色のつけものを一切れ摘み、口の中へ放り込んでしまいました。
ボリボリ、と咀嚼音が聞こえてきます。ジャリジャリはしないのでしょうか。男性は美味しそうに噛み続け、飲み込んで頷きました。
「うん、しっかり漬かってる。今年もバッチリだ」
男性の評価に奥さまは微笑み、「わたしもたべる!」と長女が男性の真似をしてパクリと一口。そしてボリボリ。美味しそうに食べています。
これだけ目の前で食べられて、わたしが食べないわけにはいきません。
意を決し、同じように緑色のそれを口の中に放り込みました。
ボリボリ。ボリボリ。
お? 本当にジャリジャリしません。それどころか普通に美味しいです。
「どうです? 美味しいでしょう?」
「はい……正直驚きました。見た目はあれなのに、とても美味しいです」
「はっはっは! 本当に正直なお方だ!」
わたしの感想を聞いて男性は膝を叩いて笑い、奥さまもクスリと微笑み、子どもたちはなぜ笑っているのかわからないのか首を傾げていました。赤子でさえも。