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5話

 手で作った犬で長女の心をバッチリと掴むことができたわたしは、お宅へとお邪魔させていただいて、いまは三人で遊んでいます。

 奥さまはここぞとばかりに家のことをテキパキとこなしていました。


「どうですか? これは鳥さんです」

「おぉ~!」


 長女は楽しそうに手を叩いてくれました。

 障子(しょうじ)というらしい木枠と薄い紙で作られたセキュリティーがばがばな扉越しに手で影絵を作って見せているのです。


「とりさんだ~! それはどうやってるの~?」

「これは、このようにしています。やってみますか?」

「うん!」


 手の形を教えてあげて、今度は立ち位置を入れ替えます。

 そして教えた通りの手の形を扉越しに作り、鳥の影絵を作ってくれました。


「どお?」

「ばっちりです。そのまま指を動かせば飛んでいるように見えますよ」

「こうかな?」

「そうですそうです。そのまま動かしましょう!」


 長女は指をパタパタと可愛らしく動かして、そのまま上下左右に移動させます。良い感じに鳥を再現できています!

 わたしの鳥が白鳥だとするならば、長女の鳥はスズメと言ったところでしょうか。

 ──そのときでした。

 わたしの背ですやすやと寝息を立てていた次女が泣き出し、ぐずってしまったのです。


「よしよし。どうしたんですかー?」


 背中から抱き抱えるように移動させて、ゆらゆらとさせながら聞いてみますが、赤子なので当然「腹減った」などの返事らしい返事はありません。精一杯泣きじゃくるだけです。

 これがなかなか泣き止んでくれません。こういうとき奥さまはどうしているのでしょうか?


「わんわん! わんわんわん!」


 長女が覚えたての手で作った犬を見せてあげると、そちらに気が逸れたのか、あっという間に泣き止み、潤んだ瞳で長女の犬を見つめています。

 おお、いいですよ。その調子です。


「わん、わんわん!」


 ちゃんと吠えるタイミングで指を動かしたり、耳となる指もこまめに動かしていてなかなかに芸が細かいことをしています。

 そのお陰か、泣きそうにシワの寄った眉根が笑顔へだんだんと変わっていくのがよくわかります。赤子の表情ってここまでわかりやすいものなんですね。これは新しい発見です。


「わらった! わらったよ!」

「よかったですね。泣き止んでくれて」


 次女が笑顔になり、それを見た長女が笑顔になり、それを見てわたしが笑顔になる。

 なんて素晴らしい幸せの連鎖反応。


「──ごめんなさい、旅人さん! 朝花(ちょうか)がぐずっていたみたいですが……?」


 泣き声を聞きつけて家事を中断した奥さまがやってきました。が、静かになったこの場を見て怪訝な表情を浮かべていました。


「あやしてくれました。この子が」

「まあ。美夕(みゆ)が?」


 奥さまは意外そうな反応を見せました。最初にわたしに見せたように引っ込み思案で恥ずかしがり屋な長女があやしたことは今までなかったのでしょう。


「とても頼もしかったですよ。ありがとうございます」

「えへへ……」


 長女を褒めてあげると、照れ隠すように俯いて微笑んだのでした。

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