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23話

 それから恐らく一週間ほどが経過しました。

 茫然自失としたまま、ほぼ無意識に弔い続けていたので時間の感覚は定かではありません。

 全ての人の墓を建て、弔い終えてからもわたしはこの場所から動けずにいました。

 心身ともにボロボロです。


「ごめんなさい」


 いくら謝っても足りない気がして、それでもいつか許してくれるんじゃないかと、そんな気がして。

 ──ここの人たちは、全員優しかったから。

 喉が枯れて声が掠れても、それすらもわからないほどに、わたしは憔悴(しょうすい)していました。

 ここの人たちはわたしに優しくしてくれた。親身になってくれた。

 わたしにできるお返しなんて、誰もいない葬儀を上げ、お墓を立てることだけなのに。


「──どうしてわたしは、お墓に名前を刻んであげることもできないのでしょうか……!」


 男性のお墓にすら名前を刻めない自分に嫌気が差します。

 奥さんや子ども達、そして妹さんに関しては名前を耳にしているという記憶がありながら、(もや)がかかったように指の隙間をすり抜けていきます。

 もともと人の名前を覚えるのは苦手でした。輪に掛けて苦手になったのは魔法を使えるようになってからでしょうか。

 わたしの記憶から名前が失われるという呪いではありません。呪いが関わっているのは事実ですが。


 ──運命に抗え。でなければ死ぬしか道はない。


 お婆様の助言が脳裏に反響してきました。

 目の前にはお婆様のお墓。右を見ても左を見ても、ズラリと並ぶ墓、墓、墓。

 視界を埋め尽くすのは墓ばかり。眩しく溢れていた笑顔は面影すら消え去っています。


「わたしは抗いましたお婆様。呪いという運命に」


 ですが、その結果がこれです。全ての人を死なせてしまいました。誰一人として助けることができませんでした。


「ああそうか、死ねばいいんだ。わたしが」


 それしか贖罪(しょくざい)の方法が思いつきませんでした。それにわたしが死ねば、これ以上の犠牲は減るはずです。

 世界から死神が一人、消えるのだから。

 そんなことをしたって誰も許してくれるはずがないとわかっていながら、わたしの口は無意識にそんなこと呟いていました。


「……今なら(﹅﹅﹅)死ねる気がする(﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅)


 無事だったわたしの荷物の中から一振りのナイフを取り出します。わたしの心臓を貫くだけなら充分な刃渡りがあります。

 自分の胸に切っ先を軽く当てると、呼吸で上下しているのが感じられます。わたしは生きているのだと、そう主張するように。

 わたしのせいで沢山の人を死なせてしまったのに、わたしは生きているなんて……逆だったらよかったのに。


「わたしが死ねば、みなさんに直接謝れるでしょうか」


 死後の世界がどうなっているのかなんて誰にもわかりませんが、もしそのようなものがあるのだとするならば、ぜひ謝らせてほしいものです。

 そんなことを、いるかもわからない神様にお願いしながら、わたしは自分の胸にナイフの刃を深く深く──

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