22話
頭に上った血が下がって全身にゆっくりと巡り、じんわりと自分の体温を感じながら周囲をぼんやり眺めます。
そこには、あったはずのものが無くなり、無くていいものがありました。
──人々が培ってきた生活があったはずなのに。暖かな笑顔があったはずなのに。
家々は軒並み崩れ落ち、冷たくなった死体があちこちに転がっています。
魔教徒の死体は少ないです。わたしが跡形もなく殺して、それ以外は逃げたのでしょう。
「…………」
もはや言葉はありませんでした。出ませんでした。
なにかを言ったところで、それを聞いてくれる人が誰もいないのだから。
……いえ。
「弔いましょう。せめてもの償いに」
わたし自身が、わたしの言葉を聞いています。言葉を口にすることで、心に火を灯します。
崩れた家の瓦礫を圧縮して撤去し、お世話になった一家を捜索します。すぐに見つかりました。遺体として。
それからついでとばかりに、わたしの荷物も見つかります。こちらは無事でした。
「わたしの荷物なんかより、命が残っていれば良かったのに」
これは口にしたところで、体を動かす燃料にはなりませんでした。
気づけばいつもは結い上げていて気にならない髪の毛も解けて、泥まみれになっていました。本来なら絶対に許せない汚れでも、今は後回し。
転がっている死体を集めたら山になってしまうように、やらねばならないことが山積みです。
「失礼します」
今はただの亡骸になってしまった男性に手を合わて祈りを捧げました。
「あなたは家族を守ろうとしたのですね。必死に」
男性の焼死体のそばには、大きさの違う別の焼死体が三人分。きっと奥さんと次女と妹さんでしょう。
しかし火の手は命を燃やし尽くしてしまいました。いともたやすく。
慎重に、無事だった魔力板で黒焦げになった焼死体を運びます。それらはとても軽くて、まるで影を運んでいるような気分でした。それがより一層、すでに命が宿っていないということをわたしに痛感させます。
何往復もして、村中の死体を一か所に集めました。これには丸一日かかりました。
「ごめんなさい」
わたしは決められた音色しか奏でることができないオルゴールのように、同じ言葉を繰り返します。
「ごめんなさい」
わたしがここに居座らなければ、こんなことにはならなかった。三日くらいなら大丈夫だろうと。
「ごめんなさい」
わたしならばなにが起こっても対処できると己の力を過信した。だから取り返しのつかない結果になった。
「ごめんなさい」
雨を吸い、ぐずぐずになった死体を無理やりに燃やして大量に煙が立ち込めています。鼻が曲がりそうで、吐き気を催すにおいが思考にノイズを走らせます。
……どうか天へと召されますように。
「ごめんなさい」
それしか、言えませんでした。




