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20話

 バケツリレーの頑張りもあったのでしょうが、わたしの行動を嘲笑うかのように、倒壊した家の炎は瞬く間に消えていきました。

 わたし自身は領域の壁が守ってくれたのでなんともありません。

 ですが目の前には──瓦礫と瓦礫の隙間には、輝かしい未来を掴み取るはずだった小さな指だけが覗いていました。そして染み出すように溢れてくる赤いそれは、まだわたしに助けを求めているかのように、へたり込むわたしの服に染み込んでいきます。


「………………雨」


 すっかり開けた土地になってしまい呆然とするわたしに、いつの間にやらザーザーと、慰めの恵みが天から舞い降りていました。

 追いかけていた雨雲が踵を返したのでしょうか。空を見上げてみれば、そこにはどんよりと曇った重苦しい空がありました。

 この雨もあったから、火事が収まるのも早かったのでしょう。

 いつでも雨は、わたしの味方。荒んだ心を潤してくれる。

 ここに暮らす人々の笑顔のように。


「まだ……まだ潰えてなどいません。希望は」


 長女はわたしの目の前で死にました。ですがそれ以外はまだこの目で確かめていません。

 ──どうか無事でいてください!


「みなさん、瓦礫をどかすのを手伝ってください! 他の人はまだ生きているかもしれません!」


 一目散に瓦礫をどかし、圧縮魔法で邪魔な物は潰して、下敷きになっているかもしれない家族を捜索します。


「──?」


 そういえば、バケツリレーをしていて他にもたくさんの人がいたはずなのに、やけに静かでした。

 嫌な予感を背後にひしひしと感じながら、ゆっくりと振り返ると、そこには──


「人に救いを! 死の救済を!」

「…………魔教徒」


 全身を黒いローブで包み、手には悪趣味な短剣。そしていつもの決まり文句の『人に救いを。死の救済を』は間違いなく神出鬼没な魔教徒の証。

 その数はパッと見ただけでも優に十数人を超えていて、まだまだどこかにいるでしょう。

 一人いたら十数人はいると思え、とはどこぞのしぶとい虫のようです。わたしの大嫌いな。

 その大量の魔教徒は、一人が一人を殺します。もちろんそれ以上も殺します。

 つまり十数人もいれば、こんな小さな田舎村を全滅させるくらい、わけないというわけです。

 すでに周囲には血だまりが生まれ、雨に流されていました。

 村の人も、瓦礫のように転がされていたのです。


「……わたしのせいだ。わたしがここに来たから、ここで過ごしたから、こんなことになってしまった」


 自責の念に駆られたわたしは、項垂れてしまいました。足元には小さな小さな指。助けを求める小さな指。

 わたしの目の前は真っ赤になりました。手足の温度がすっと下がって空っぽになり、全身の血液が頭に上っているのがよくわかります。

 そして、わたしの近くにいた魔教徒が体の内側から爆ぜました。


「お前ら全員、皆殺しにしてやる。腹いせに」

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