2話
わたしの旅の道しるべでもある雨雲が風に乗ってどんどん遠くへ流されていく中、気がつけば畑仕事をしていた人たちと談笑していました。
最初は休憩に〝付き合わされていた〟のですが、だんだん楽しくなってきてしまって、自然と引き込まれてしまいました。このお喋り好きが田舎パワーとでも言うのでしょうか。
「ところで、旅人さんはどこから来たんですか?」
麦わら帽子の男性が聞いてきました。
わたしは少し考える素振りをしてから答えます。
「そうですね……あちこちを転々と。とても遠くから」
あまり出自の話はしたくなかったので、適当なことを言って誤魔化しておきました。嘘はついていませんから罪悪感はあまりありません。
おじさまはうんうんと頷いて、
「ほぉ、そんりゃご苦労なこって。大変だったろう、よかったらウチに泊まってくかい?」
細かいことは気にしないのか、追求されることもありませんでした。おじさまは独特な訛りと共にただ笑顔で労ってくれたのです。ありがたい。
「良いのですか? それは助かりますけどご迷惑では」
なんだか、先程からなにも言っていないのに欲しいことを向こうから言ってくれるのですが。ここはもしかしたら天がわたしに用意してくれた休憩地点なのかもしれません。
「見ての通りなんもない田舎村だぁ、こんくらいの出来事がねぇと退屈でなぁ」
「そうそう! だからこんなやつのところじゃなくてウチに来て頂戴よ! もっとお話聞かせてほしいわ!」
お誘いしてくれたおじさまを押し退けるほど、おばさまの押しが強いです。わたしとしても、ばさまのところにお邪魔させてもらったほうが気持ち的にはやりやすいです。
しかしおじさまも簡単には引きませんでした。
「だったらジャンケンで勝負だぁ! 今日こそ勝ってやっからよぉ!」
「この人ったら私にジャンケンで勝ったことないのよ? なのに挑んでくるんだから男って馬鹿よねぇ?」
同意見ではありますが同意しづらい話をわたしに振らないでくださいませ。おばさま。
「負けが多いってだけで勝ったことくらいあらぁよ!」
「減らず口を叩くね! じゃあそろそろ白黒つけてやろうじゃないかい!」
「「ジャンケンポン! あいこでしょ! あいこで──」」
と、このように隣でおじさまとおばさまが楽しそうにジャンケンをしている中、男性も名乗り出てきました。
「我が家はどうですか? ちょうど茄子や胡瓜が良い具合に漬かってるんです。美味しいですよ、ぜひ食べてみてください」
「なす……きゅうり……つかってる……?」
美味しいということは、この地方特有の食べ物でしょう。湯にでも浸かっているのでしょうか? とても興味があります。食べ物には。
「──あいこでしょ! ぃよし! ほぅら今日は俺が勝った! よっしゃ旅人さん、今日はぜひウチに──」
「あ、こちらの方のお宅にお邪魔させていただきます。わたし」
「せっかく勝ったのにぃ〜?!」
おじさまの残念そうな悲鳴と、それを笑うおばさまの声が高らかに響き渡っていったのでした。