18話
わたしは固い生唾を飲み下しながら、意味もなく忍び足で川辺に向かいます。
川に漂っていたのは、間違いなくおばさまでした。元気に笑っていた朗らかな笑顔が苦し気に歪んでいて、その表情は見るに堪えません。
「そんな……どうしておばさままで……?!」
死体が水を吸って膨らんではいないことから、それほど時間は経っていない様子。外傷も無いように見えます。
とにかく、引き摺って陸に引き上げました。着物が水を吸って非常に重たいです。
「おばさま! おばさま!!」
すぐさま心臓マッサージと人工呼吸を試みますが、まるで反応はありません。心臓はとっくに止まって血液は全身に巡っておらず、唇は青く染まり、指先などはふやけています。
いくら声をかけても、胸を押しても、返ってくるのは冷たさだけ。
「手遅れ、だった……」
わたしは祈りと共に手を合わせました。きっと死に際は苦しかったことでしょう。どうか安らかに。
「なぜ……こんな短時間に3人も……?」
偶然にしてはタイミングが重なり過ぎている。
それを口にして、わたしは嫌な想像が脳裏を過りました。
この流れがもし止まらなかったら……? わたしが歩くたびに誰かの死体が転がっていたら?
──この状況は、わたしが作り出してしまった。
長居し過ぎた。入れ込み過ぎた。
早々にここを離れるべき。葬儀屋であるわたしが死んだ人を放って?
わたしの中で、自責の後悔が渦を巻きます。
「魔法なんて力……欲しくなかった……本当に」
しかしそれに頼らなければ今まで生きては来られなかった。
そんな自分が不甲斐ない。情けない。
頭を振って悪い考えを無理やり追い出します。
「とにかく、おばさまも弔う準備を進めなければ。わたしは葬儀屋だから」
自分に言い聞かせ、早々にここを離れるためにも、迅速に事を進めましょう。
穏やかな時間が流れていた場所は、一気に慌ただしくなります。
「魔力板の力が必要ですね。一人では厳しい」
人を担いだまま下流へ向かうには、わたしでは少々力不足です。ここの人たちに手伝ってもらうという手ももちろんありましたが、葬儀屋であるプライドがそれを許しませんでした。
男性の家にわたしの荷物は置いてあるので取りに向かいます。
「……煙? 料理か湯沸かしにしては量が──」
男性の家がある辺りからモクモクと天高く登っていく煙。
わたしとしたことが、真っ先に心配するべきでした。男性の家族を。
土を蹴り上げ、大急ぎで向かいます。
「そんな……」
──男性のお宅は、誰にも近寄らせまいと、真っ赤に大炎上していたのでした。




