16話
妹さんが落ち着いたころ、様子を見ていた兄である男性が現れ、宥めながら言いました。
「すぐに葬儀をあげよう。魔人になってはいけない」
確かに、このままでは遺体に悪魔が宿り、魔人として悪意を振り撒く存在になってしまいます。そうなってしまっては浮かばれません。
不都合もなかったのでわたしのことは〝旅人〟で通していたのですが、こうなってしまっては正体を明かしたほうが良いでしょう。
僭越ながら、出しゃばらせて頂きました。
「それなのですが、わたしにお婆様の葬儀をやらせてもらえませんか?」
「旅人さんが? ですが……」
男性は困った表情を浮かべています。
普通に考えれば数日程度の付き合いの、どこの誰とも知れない人間に家族の葬儀を任せるなんてしませんよね。
「安心してください。わたしの名前はホワイト。れっきとした葬儀屋です」
「葬儀屋だったのですか?!」
「ええ、旅をしながら営んでいます。以後、お見知り置きを」
男性はひとしきり驚いてから、わたしのことを上から下まで眺めて言いました。
「短い付き合いですが、嘘をつく方ではないと信用しています。これも何かの縁でしょう。葬儀の件、お願いできますか?」
「このホワイトにお任せを。しっかりと弔わせて──」
「誰かぁ! 誰か来てくれぇ!」
──頂きます、と言いかけて、外からの大声に遮られてしまいました。
「まさか──見てきます!」
「旅人さん?!」
危機迫った声を聞き、弾けるように飛び出しました。
周囲を見回すと、慌ただしくしている人の流れが生まれていました。その流れを辿ると、初めてここに来たときに見かけた水車小屋へ集まっているようです。
「どうしました?! なにがあったのですか?!」
「ああ旅人さん! 畑の親父が……親父が……」
「畑の親父……?」
「いつも首にタオル掛けてる!」
第一村人の一人だった、あのおじさまのことでしたか。そのおじさまが一体どうしたのでしょうか?
気になったわたしは、混乱している人を押し退けて小屋の中へ。
それを見て、最初に口を突いた感想はたった一言。
「……なんて惨い」
そこにいたのは、果たして本当におじさまなのか、わたしには判別ができませんでした。
──首のない死体が、横たわっていたのです。
真っ白だったタオルはおじさまの血を満遍なく吸い、赤黒く変色しています。
では、肝心の首から上はどこにあるのか。
ぐちゃり、ぐちゃり、ぐちゃり、ぐちゃり──
と、水車からの動力で一定間隔で動いている杵で何度も何度も、何度も何度も。
何度も何度も。
繰り返し繰り返し。
──潰されていたのでした。




