14話
──翌朝。
約束通り三日間は滞在することにしたので、男性や奥さんのお手伝いも続行するということになりました。
もちろん、働かざるもの食うべからずも継続です。
お婆様が起きている時間はお婆様との話し相手。そうでない時間は自由時間ということになりましたが、手伝えそうなことは全て手伝うつもりでいます。
そんなわけで、現在は畑仕事のお手伝いをさせてもらっています。おばさまには「つらいぞ」と言われましたが、おばさまだって畑仕事をしているのですから問題ありません。
「ふぅ……しかし、なかなかハードなものですね。畑仕事とは」
わたしの白い肌を転がり落ちる汗をタオルで拭い、雲一つない真っ青な晴天を見上げて呟きました。
こんなに大変な仕事を毎日しているなんて、農家の方々には頭が上がりません。これからはより一層、食事には感謝の気持ちを持って臨まなければならないでしょう。
食べ物を粗末にすることがどれだけ罪深いことなのか、身を持って体験できます。
「旅人さんなかなか筋がいいよ! 農業に興味ないかね? 一緒にどうだい?」
おばさまがお誘いしてくれましたが、
「ありがとうございます。そのときは色々と教えてくださると嬉しいです」
満面の笑みで、遠回りにお断りさせていただきました。
残念ながら旅をしている都合上、農業に手を出している余裕はありません。
「ところでおじさまはどちらに?」
「あの人は他にもやることあるから、そっちが終わったら来るよ。それよりもそろそろ休憩にしようじゃないかね。いい働きっぷりで助かるよ!」
「ありがとうございます。お役に立てているようでなによりです」
久しく忘れていました。人から感謝される心地よさというものを。思えば、わたしにこの思いを最初に教えてくれた人たちも、この田舎村で暮らしている人と似たような人たちでした。
明るくて、温かくて。
よく喋り、よく笑い。
よく働き、よく眠る。
わたしの理想の老後はまさにこんな人生です。この光景を目に焼き付けておきましょう。いつか来る幸せな未来のために。
「ほれ旅人さん、これ食べんさいな」
「これは?」
「おむすびさね。具は梅干しだから、疲れた体に良いんだよ」
「おむすびですか。良い名前ですね」
これを〝お結び〟と捉えるならば、なんだか縁起が良さそうです。うめぼしというのは初耳ですが、昨日頂いた漬物とやらも美味しかったですから、これも期待できそうです。
わたしの中で、期待値が膨らみます。
しっかりと近くを流れている奇麗な川で手を清め、白い粒が三角形に固められたおむすびとやらをおばさまから受け取ります。柔らかくて今にも崩れてしまいそうです。
そうなってしまう前に、大きめに一口頬張りました。
「────!」
きゅぅぅぅぅ、と口の中から唾が大量に分泌される感覚が舌根を刺激してきました。
「しゅっぴゃ、い……っ!」
「あっはっは! 梅干しは初めてかい? 可愛い顔もできるじゃないか!」
全く予想していなかった味に驚かされ、おばさまに盛大に笑われてしまいました。はずい……!




