13話
──ひとまず結論を言ってしまえば、お婆様からわたしが知りたい情報を聞き出すことはできませんでした。
本当になんでも知っているのか? と疑問に感じて適当なことを聞いてみたら、しっかり答えが返ってきたので嘘ではないようです。
魔法関連のことは謎ばかりですから、いくら物知りでもわからなくて当然でした。残念。
それから100歳越えているだけあって何度も同じ話を聞かされました。機械的に同じ返答をしていたので苦ではありませんでしたが、これが四六時中ともなれば、相手をしている男性はうんざりしてしまうでしょうね。お察しします。
結局、真夜中までお喋りに付き合いました。
「旅人さん、お疲れさまでした」
そこへ男性が現れ、労ってくれました。約束通りお婆様に話を合わせるのは何気に大変だったので、心に沁みますね。「お疲れさま」という言葉は。
「……寝ていなかったのですか? もう夜中なのに」
「お客さんが祖母に付き合ってくれているのに、おちおち自分だけ寝ていられませんよ」
「そこまで気を遣わなくても。お婆様はお休みになられましたよ」
「そうですか。ならしばらくは安心ですね」
…………。
それからしばし無言の静寂が場を支配しました。ガタガタと風が騒がしくするだけで、お互いに静かなものです。
男性は、なにか言いたそうにしていました。だからわたしは待ちました。
用意してくれた部屋が男性の先にあって通れないからという理由もありますが。
ようやく、言いづらそうにしながらも男性は口を開きます。
「あの……」
「はい」
「お願いが……あるのですが」
「聞くだけ聞きましょう。なんでしょうか」
こう見えても人の話を聞くのは嫌いじゃないのですよ。こんな時間までお婆様のお話に付き合えるくらいですから、それはわかって頂けるかと思います。
「小夜が戻ってくるまで、ここに居てくれませんか? 祖母のあんな楽しそうな顔、久々に見たんです」
「妹さんでしたね。戻ってこられるのですか?」
「手紙を出していて、近々戻ってくると返事があったんです。祖母はもう……長くないので。最期くらい、幸せな時間を過ごして欲しくて……」
男性は泣きそうになっていました。わたしの前だからか必死に我慢しているようですが、丸わかりでした。
「もう起きている時間より眠っている時間のほうが長いし、食も細い。ご存じの通りボケもかなり進行しています。医者には『いつ眠りから目覚めなくなるかわかりません』と言われました。だからその前に妹を呼び戻したんです」
「どれくらいで戻るかは? 妹さん」
「あと三日ほどかと」
──あと三日。
その間は、この村で過ごすことになります。
大丈夫……なのでしょうか。少し心配ですが、お婆様のためにしてあげられることはしてあげたいです。
そう思い、わたしは頷きました。
「わかりました。いいですよ」
「本当ですか?! 助かります!」
「ただし三日です。戻っても戻らなくても」
それが限界です。恐らく。
「はい! ありがとうございます!」
勢いよく頭を下げる男性に、わたしは口元に指を当てて艶っぽく言ってあげました。
「──夜中なのでお静かに、ですよ?」




