12話
「──魔法の呪い、あるいは魔法そのものを消す方法をご存じではありませんか?」
この質問に対し、お婆様からの返答は「知らん!」とそれはそれは潔いものでした。逆に心地いいくらいです。
ちょっとだけ期待していた自分にショックで言葉を失っていると「だが……」と続きがありました。
「運命に抗え。でなければ死ぬしか道はない」
「────」
運命に抗う──大切なものを失い続ける呪いを凌駕しろ、と。
思い返してみれば、その機会はあったように感じます。無茶ですが。
(た、旅人さん魔法使いなんですか?)
(奥さんから聞きませんでしたか? そうですよ)
魔法は悪魔の力とされているので、一般的に魔法使いは忌み嫌われるもの。ですがわたしはそんなことお構いなしで、聞かれたことには素直に答えます。隠しごとは苦手なので。
もちろん、隠しごとは苦手と言っても今回のように話を合わせたり、時と場合によりますが。
それはそれとして、もうちょっとだけ食い下がってみますか。
「魔教徒の情報を持っていたりはし──」
「ない!」
「ないですか。さいですか」
やはりこの旅はのんびりじっくりゆっくりと、腰を据えて続ける必要がありそうですね。
ならばもう聞きたいことはありません。
「ありがとうございます、お手間を取らせました。わたしはもう下がりますね」
「まあ待て小夜。せっかくだ、ワシと少し喋ろう。年寄りの戯言に付き合っておくれ」
「年寄り扱いするなと言っていたのにですか?」
「小夜には言っておらんから問題はない」
「婆ちゃんそれはちょっと酷くないか?!」
扱いの雑さに抗議の声をあげる男性。それに「かっかっか!」と笑ってお婆様はシッシッ、と手を振りました。
「さあ、わかったら男は出ていきな。ここからは女子会だから男の出る幕はないよ! なんなら嫁と子どももここに連れてきな! あんただけハブってやるから」
「だからさっきら俺の扱い酷くないか?!」
若者と遜色ない喋りかたをしている辺り、本当に物知りなんだろうな、と思わせられます。時代の流れについて行っているという意味で。
流石に男性がちょっと可哀想と思ったので、助け舟を出すことに。
「子ども達はもう寝ていますし、母親として添い寝しています。お話ならわたしが付き合いますよ」
「なんだいそうなのかい? そりゃ残念だ」
お喋りが好きそうなお婆様ですから、一度捕まったら朝まで話し続けてもおかしくありません。そんな長時間、家事でヘトヘトな奥さんを付き合わせるわけにはいきません。
(大丈夫なのですか?)
(構いませんよ。肝心なことは聞けませんでしたが、まだ聞いてみたいことはありますから)
お婆様がどんな人だったのかとか、妹さんがどんな人だったのか、とか。




