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私の元婚約者

第一王子目線~後編~

何か書きながら、段々とこの子、不憫になってきた(^_^;)


 卒業まで一月を切っても、私と彼女の間にはこれといって何の進展もなく、代わりにローズ嬢に『聖女』認定をと言う議会の意見が強くなってきていた。

 そうなるのも当然の事だろう。

 ローズ嬢の聖魔法は、大程度の傷を癒せる『治療』、中程度の病と異常状態を治せる『治癒』、体力上昇と死霊(アンデッド)に効果がある『祝福』、運気や気持ちを向上させる『癒し』を発動できた。

 部位欠損を治せる『奇跡』を使えるわけではないから最強ではないが、最上級の聖魔法の使い手と言えよう。

 だからこそ議会はローズ嬢の卒業を待って『聖女』に認定するようにと、求めている。

 高位ならいいがローズ嬢は男爵と下位貴族令嬢、何らかの要因で他国に持っていかれては拙いので、国で正式に囲っておきたいのだ。

 だが、そうなってしまうと非常にまずい、聖女=皇太子妃なのだから。

 漫然と私はこの国の王に、彼女は王妃になるものだと思っていたし、その為の努力を惜しんだつもりはない。

 だがローズ嬢が聖女になるのなら、彼女は王妃になれないのだ。


 その時、天啓のように閃いた。


 もしかして彼女は、皇太子妃になりたくないのかもしれない。

 だからこそ聖女を育てたし、皇太子に一番近い私に熱を上げないのではないか。  

 ならば普通の王子妃の方がいいのでは? むしろ私が臣下に下って大公家を継いだ方が、彼女は喜ぶのではなかろうか?

 たとえ私が大公に下ったとしても、私と彼女の子供が次期王子の妃なり、王女の王配なりになれれば叔父上の血は王家に戻ることになるのだから。

 それは、とてもいい案のように思えた。

 とにかく猶予は、学園の卒業パーティーの日まで。

 案を考え、策を練り、計画を皆に相談してみると、概ね良好の返答を貰ったが、ローズ嬢だけは


「何でそんな、ややこしい事をするんですか! 『愛してる、婚約じゃなくて結婚してくれ』って言えばいいじゃないですか!! 貴族って面倒臭いっ!!!」


 と、猛反対……いや、君も男爵令嬢だぞ、というか最近、本格的に私に容赦ないな。

 とにかく皆して、貴族、特に王族には体面や矜持や面子、様々な柵や段階があるのだからと必死に説得し口止めをした。

 そうでないとローズ嬢から彼女に計画が筒抜けになってしまう恐れがあるからで、特に計画大詰めの一月間はあまり彼女と行動を共にしないように言い含めておく。




 そして卒業パーティの前日、作戦決行の日、彼女を生徒会室に呼び出し


「クレリット・エルランス嬢、貴女との婚約を解消します」 


 そう告げる。

 さて彼女はどう出るだろうか? 多分、驚いてから少し考えて、俯いたあと悲しげに微笑んで、婚約解消を受け入れる旨を口にするだろう。

 そうしたら『卒業パーティーはエスコートをする、朝に迎えに行くから用意しておいて欲しい』と言えば、彼女はホッとした表情を浮かべてくれると……そう思っていたのに。

 何とも晴々とした雰囲気の後、彼女は穏やかに微笑んで淑女の礼をして


「婚約解消、承りました殿下」


 と、何の躊躇もなく言い放ったのだ。

 段取り的には間違いはない、だがそのあまりにも予想と違いすぎる雰囲気に、皆は『拙いんじゃないか!?』とソワソワしだし、ローズ嬢は密かに私に対して怒っていたらしいのだが、当の私は思考が完全に停止してしまって次の言葉が出てこないでいた。


「殿下?」

「っ、あぁ」

「他に、用は御座いますか?」

「っ、いっ、いや、ないっ!」


 違う、何か、何か言わなくてはっ!


「では、わたくしはこれにて失礼いたします。 婚約解消の旨、父に伝えておきますので」


 彼女がもう一度頭を下げ踵を返した途端、四方八方から私の座っている椅子の足がガンガン蹴られる。

 そうだ言わなくては、このままでは意味がないっ!

 慌てて立ち上がり、彼女に声をかけた。


「クレリット嬢!」

「はい、何でしょう殿下」

「明日の卒業パーティーにはエスコートをするから、朝、用意しておくように」


 彼女は、いつものように微笑んでもう一度、淑女の礼をして生徒会室を後にした。

 言えた! 良かった!! 首の皮一枚つながったっ!!!

 肺の中の全ての空気を吐き出し、力なく椅子に腰から崩れ落ちる。

 だが、生徒会室の空気は微妙なままだ。


「なっ、何とか上手くいったんだよな?」

「そっ、そうですね。言うべき事は言えましたし」

「大丈夫だよね?」

「恐らくは……最後は、微笑んでおられましたから」


 肯定的な意見の男達と対象に、ローズ嬢は怒り心頭だ。


「絶ー対、誤解してますよクレリット様! いいんですか追いかけないで? あんなに素敵な女性なんですから、すぐに横から搔っ攫われちゃいますよっ!!」


 掻っ攫われない為の計画なのに。


「彼女は私の婚約者だ」

「たった今から違うじゃないですかっ!」

「明日には王子妃だ」

「本当にお願いしますよ殿下、明日はちゃんと『結婚しよう』って言ってくださいね! 一人で卒業パーティーに来ないでくださいよっ!!」

「大丈夫だ、奥の手の玉璽もちゃんと陛下からもらってある」

「はーぁ、王族って面倒臭っ!」




 嗚呼、あの時、聖女の予言の通りに、彼女を追いかけていたらよかったのだ。

 王族の体面や面子や矜持など後生大事にしていないで、素直に『結婚してほしい』と言えていれば、こんな顛末にはならなかっただろうか。

 次の朝、大公家の街屋敷(タウンハウス)に行ったら、彼女は領地に帰った後で、大公領まで追いかけて探したのに領主館(マナーハウス)にも、大公領の修道院には何処にもいなくて。


 港の端から遠くに見える小島を眺める。


「あの島の修道院にクレリット様がいるんですか?」

「あぁ、恐らくな」


 彼女が私の前から居なくなって、すでに二年の月日が経つ。

 結局、私は前期の社交シーズンの終わりに立太子して、聖女に任命されたローズと成婚した。

 彼女の事を忘れた訳ではないし、議会からさんざん聖女との成婚をせっつかれた訳でもないが、ローズと成婚できた理由は

 『私はどっちでもいいですよ、殿下でも第二王子殿下でも。 何なら、女王になったっていいでーす……あ、いや、王族でいいなら大公閣下って手も!? そしたらクレリット様が義娘にっ!』

 その私のこと慮った軽さに、救われた気がしたからだ……いや特に最後、冗談だよ、な?

 それ以降、ローズは聖女として彼女仕込みの完璧な淑女を演じ、私にはあいつ等みたいに気さくに、相変わらず容赦なく接してくれている。

 そして今、聖女の御幸として国中を回り、最後のエルランス大公領に来ていた。


「でも、冒険者組合(ギルド)からの返答はないんですよね」

「まぁな」

「ある意味すごい修道院ですよね、皇太子の依頼も、聖女の依頼もまるっきり無視ですから」

「あぁ、できる事なら、自ら乗り込んでやりたいが」

「何でその行動力をあの時に発揮しなかったのかなぁー、この人は」


 いつもながら手厳しい、だがそれが叱咤激励のように聞こえるのは何故だろうか。


「そうだな」

「んーでも、何て言うか、あの島の修道院って、クレリット様らしくないんですよねぇ」

「どういう意味だ?」

「あんな何もないような小さな場所に逃げ込んで、震えているような、か弱いお方じゃないですから」

「何を言っている? クレリットは嫋やかで優しくて儚い感じの令嬢ではないか?」


 ローズは聖女らしからぬ悪い笑みを浮かべる。


「あ、それ一面です」

「一面?」

「私がクレリット様に懐いたのは、私と同じようなニオイがしたからです」

「彼女はあまり香水は嗜んでいなかったが」

「違いますよ! ん゛ー何て言いますか、庶民的な雑草魂とも言いますか、踏まれてもへこたれない、そんな感じ?」

「まさか、ありえない」

「でも、とっても強かで逞しい方だと思ってますよ、私も皆様の奥様方も。 大体、儚くて嫋やかなだけの女性に、女はついて行きません」


 確かに芯の強さはあったが、強かで逞しいなどと表現される要素は皆無だ……無かった筈だ。

 だがローズも、あいつ等の奥方もそう評しているのなら、私には見せていない顔がいくつもあったのだろう。

 十二年も一緒にいたのに情けない、だから彼女は私の目の前から消えたのだろうか。


「そう、か」

「そうです! ところで、もしあそこにクレリット様がいて、もしも会えたら殿下は一体どうしたいんですか?」

「……ただ聞いてみたいだけだ、私はどうしたら良かったのか? 一体何を間違ったのか?」


 今更どうこうしたい訳ではない、ただこの目で彼女の無事を確かめたいのと、顔が見たいそれだけで。

 島を眺めながら黄昏れていると


「そんなの、言葉と態度にしなかったのがダメに決まっているじゃないですか。 大体何ですか、未来の国王ともあろう人がそんな弱気で『側妃に来い!』ぐらい言ってくださいよ」


 通常営業でローズは一切の容赦はないが、彼女を側妃に!? そんな考えは今まで一度だって頭に浮かばなかった。

 彼女は正妃に、王妃にとなるべく育てられた人材であって、そんな……でも確かに陛下だって側妃を召していた時代があるのだ、私がそうしたっておかしくはない、だが。


「クレリットを側妃にしたら、一番喜ぶのはお前だな」


 思わず、正直な意見が自然と口をついて出たら。


「当り前じゃないですか! そうしたら殿下なんかほったらかしにして、クレリット様と一緒に仲良く色々するんです!!」


 未だ庶民パワーは健在なのだろう、握り拳で力説する我が妃に苦笑が漏れる。


「王妃が側妃を大好きな国か……平和だな」



 嗚呼、私の元婚約者へ、君に幸あれ。

クレリットは、依存性強し傾向のダメンズメーカーで

殿下は、偽りのクレリットに真実の愛wを見出した、と。

 

きっとこのヒロイン(記憶なし)の前世は

『君クレ板』の『悪役令嬢を救い隊』の誰かかもしれないw

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