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冤罪? 無自覚の罪科

「クレリット・エルランス嬢、貴女との婚約を解消します」 


 卒業パーティーを明日に控えた日、学園の生徒会室で殿下にそう告げられた時、何ともいえない達成感を覚えた。

 これで婚約が解消され王子妃のちの皇后にならないで済む、ということもあるのだが自分の疑似子育ての結果に十分な満足感を得ていた。

 呼び出されたのは公衆の面前である卒業パーティーではなく、前日の生徒会室。

 待っていたのは生徒会長席に座っている殿下、その後ろには宰相の公爵令息、騎士団長令息、魔術師団長令息、神官長、そしてヒロインと身内のみ。

 言われたのは、婚約破棄ではなく婚約解消。

 クレリットは、心から穏やかに微笑んで淑女の礼をする。


「婚約解消、承りました殿下」


 嗚呼なんて人の心情を慮ることのできる優しい子に育ってくれたのだろう、と。

 未来の首脳陣と成るべく他の子達も順調に育っているし、何よりヒロインには私の持てる全てを教え込んでおいたし、味方となってくれる高位令嬢達もいるから、何も分からずに困窮するということはないだろう。

 王国の未来は明るい、後は任せた。

 前世含めての、老兵(アラフィフ)は去るのみだ。


 やりきった感で充実した気分で頭を下げていたが、何だかザワついた空気が流れているし殿下から後続の言葉がないことを不思議に思って姿勢を戻す。

 すると、攻略対象者とヒロインは顔を合わせながら何だかソワソワしてるし、殿下は顔色を青くして目を見開いて固まっている。

 ……お腹でも痛いのかな?


「殿下?」

「っ、あぁ」

「他に、用は御座いますか?」

「っ、いっ、いや、ないっ!」

「では、わたくしはこれにて失礼いたします。 婚約解消の旨、父に伝えておきますので」


 そう言ってもう一度頭を下げ、踵を返し生徒会室のドアに手を掛けたら、殿下が慌てたように席を立った。


「クレリット嬢!」

「はい、何でしょう殿下」

「明日の卒業パーティーにはエスコートをするから、朝、用意しておくように」


 もう婚約者ではないのだから律儀にエスコートを申し出てくれなくてもいいのだけれどと思いもしたが、昨日の今日で殿下のエスコートが(元)婚約者と変わっていたら何事かと醜聞にもなるだろう。

 責任感の強い子になって、という思いが込み上げる。

 だから、あえて約束は口にせず微笑んでもう一度、淑女の礼をして生徒会室を後にした。

 そして急いで馬車に乗って、街屋敷(タウンハウス)へと戻る。


 実は、もう全て手配済みなのだ。

 第一王子とヒロインの仲が、誰が見ても微笑ましく円満状態になっていた一月ほど前から計画していた。 

 卒業パーティーで『ざまぁ』する気もないし、そしてもう敢えて『ざまぁ』される気もなくなっていた。

 ヒロインが悪役令嬢(仮)に懐いてくれているとはいえ、ゲームの強制力で万が一にも『ざまぁ』なんてした日には、ヒロインの輝かしい未来にケチがついてしまう。

 だから、卒業パーティーに参加しないことに決めた。

 パーティーに参加しなくても学園を卒業したことには変わりはないし、このまま大公領に戻って修道院に駆け込んで体調不良をゴリ押しすれば、いつかは婚約破棄されるだろうと踏んだのだ。

 それが予想外の前日の婚約解消、渡りに船だ。


 街屋敷(タウンハウス)に戻ると、馬二頭立ての軽装馬車が用意されていた。

 王都から大公領まで普通の行程で約七日、馬を交換しながら宿に泊まらず走っても四日はかかる。

 のんびり帰っている場合ではないので、ほぼ一人乗りの小さな箱型客室(キャビン)に御者台はなく、馬二頭に護衛を兼ねた騎乗御者が乗り、要所要所で馬と騎乗御者を交代させて軽装ゆえの速度を持って夜通し走る。

 貴族令嬢としてこの世界観では考えられない強行軍ではあるが、これで行程は二日に短縮されるのだからこの際の無理は無視だ。

 ただ、スプリングだけはしっかり入れて作ってもらった。

 鍛冶屋が目を輝かせていたので、近い将来、色々な馬車に取り付けられることだろう。


 荷物はすでに大公領に送ってあるし、交代要員の馬と騎乗御者も各所にスタンバイしてもらっている。

 あとは自分が身一つで行くだけで、こんな時に学園の制服は便利だ。

 日本の乙女ゲームなので制服も日本仕様でスカートは長めだが、ドレスなんかよりよっぽど動きやすい。

 大公家の家紋が付いた豪華な箱馬車から降りようとしたら、すっと目の前に手が差し出され、見るとそこにはいないはずの人物が立っていた。


「お父様」

「お帰り、クレリット」


 当然、大公には殿下との婚約破棄を望んでいること、傷物となった暁には領の修道院に身を寄せたいと思っていること、卒業パーティーには出席せずに領に帰ろうとしていること、諸々全て話してある。

 元々この婚約は王家が望んだことで、大公家が言い出したことではない。

 だからと言って例え殿下との仲が険悪であろうとも、正当な理由なく「嫌です」なんて王家に対して言えるわけがない。

 なので修道院に駆け込んで、体調が優れない、体が弱い、何なら子供が産めない作戦でゴリ押ししようという計画で一応?許可ももらってあるのだ。


 どうしてこの時間に仕事場である王城ではなく街屋敷(タウンハウス)にいるのだろう、と思いはしたが丁度よく面と向かって報告できるとその手を取った。

 大公は不在だと思っていたから馬車の中で手紙を書いたし、それを執事に預けていくつもりだったのだ。

 他の者に聞かせないように馬車の降下を利用して、そっと大公に顔を寄せる。


「先程、殿下に婚約解消を申し付かりました」

「解消?」

「はい」

「破棄ではなく?」

「ふふ、お優しいことですわ」


 大公は何かを考えるように視線をくゆらし、そのまま軽装馬車にクレリットをエスコートする。


「……あのヘタレが……」


 軽装馬車に乗り込むので手一杯だったクレリットは、大公が何やら呟いた言葉が聞き取れなかった。


「はい?」

「いや、こちらの話だ。 護衛として騎士を二人つける、気を付けて帰るのだよ」


 その言葉で馬車の後ろを見やれば、確かに顔馴染の大公家の騎士が二人、騎乗して待ち構えている。


「あの、でもそれでは、お父様の護衛の数が減ってしまいますわ」

「王都に残る私と、街道を駆けるお前とでは危険の度合いが違う。 本来ならもっと人数をつけたいぐらいだが、足が遅れるのを望まないのだろう? お前も知っての精鋭の二人だ、交代要員も領から呼び寄せて各所で待機させてある、心配する必要はない」


 なんと手回しのいいことか、流石はやり手と噂の大公閣下、我が父親ながら未だに数多の女性から秋波を受けるのも納得というものだ。

 殿下ももう少し要領よくできればいいのだけれど、あの子は不器用だから、と苦笑が浮かぶ。


「ありがとうございます、お父様」

「あぁ、まぁ、馬車の方にも色々細工はしておいたから、安全ではあるのだがね」

「え?」

「結界の魔石を付けたから馬車の扉は内側からしか開かないし、多少の衝撃程度ではビクともしまい。 火と氷の魔石も付けたから火をかけられても燃えない氷の魔石で熱くもならない、まぁそれ以前に空調として役に立つ。 後、浮遊の魔石も付けたから、どんなに速く走らせても揺れの心配もなくて快適なはずだ」


 スプリングいらねーじゃん! との突っ込みを、必死で吞み込んだクレリットがそこにいた。

 箱型客室(キャビン)内に目をやれば窓枠に魔石をはめ込んだ箱が存在し、座席の上には掌サイズの革袋が置いてあり、恐る恐る革袋を手に取り中を開けてみると、魔石がゴロゴロと入っている。


 この世界には魔道具(マジックアイテム)という物があって、それは前世の電化製品のような物だ。 

 才能ある魔術師や魔法使いのみが作れる道具は、使用者の魔力を電池のように使うので基本は何度も使える……たまに例外もあるが。

 それと比べて、魔石は道具に組み込んだり魔石の力を開放することで、基本誰でも魔力を使うことなく使用できる。

 だが魔石は一回使い切り、しかも天然で見つけるしかない代物なので恐ろしく値段が高い。


「予備もあるから、効果が切れたらちゃんと取り換えるように」


 この魔石だけで、王都の一等地での貴族屋敷が余裕で買えることだろう。

 オ父様コレハモウ魔道馬車デース、王家デモコンナ馬車使ッテマセンヨー。

 心からの本音をひた隠し、なんとも言えない気持ちで口を開く。 


「ありがとうございます、お父様。 大切に使いますわ」


 せめて浮遊の魔石は使わずに済まそうと、自分の経済観念に誓ったのだ。

えーっと、パパン暴走しましたw


馬車の個別部位の名称がよく分からないorz

coachとかwagonじゃぁ、何かニュアンスが、ねぇ。


サブタイトル変更しました。

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