こ〇はる〇イパン理論
伏せ字の多いタイトル。でも結局、この作品のモデルケースはこれなんや。
エミに避けられるまま、休日がやってきた。
藤平さんにあれだけ早く誤解を解いた方がいいと言われたのに、見事に彼女の懸念通り深刻な方向に事態は向かっている。まさかここまで徹底的に避けられようとは、思いもしなかった。
正直、何度か心が折れていた。多分、具体的な回数を言えば……三回? 多分、丁度一日一回。用法用量はキチンと守っています。
だけど不思議なんだけど、この薬効果ないんだよなあ。過度な摂取はしてないんだけどなあ。そう言えば、効能を確認してなかった。
効能は……エミと疎遠になること。
凄い! ばっちり効いてる!
その薬を……二箱。二箱!? 十日分……。
茶番はここまでにして、本題に入ろう。
兎にも角にも、今日まで俺はエミとの関係を回復出来ずにいる。それだけわかってもらえればオッケーだ。
ついでにその他クラスメイトを含む学校の連中にも誤解されているが、先生から転校するの、と呼び出しされた試しはまだない。だからそっちはセーフ! 時間の問題な気もするけど、セーフセーフ!
というわけで、一刻も早くエミとの関係を回復させねば。そう思っての今日、土曜日である。
俺は、十時頃に家を出て、隣にあるエミの家に足を運んでいた。
ここまで避けられ続けている日々から、さすがに俺も学習したのだ。そうだ、アポなしで彼女の家に突撃して、逃げる隙さえ与えなければいいではないか、と。
ピンポーン
聞き馴染みのチャイムが、彼女の家に鳴り響いた。思えば、彼女の家には小さい頃から、親が冠婚葬祭で留守の時など、しょっちゅうお世話になっているし、夜にでも押しかけておけばよかったな、と今更思った。
いや、それはさすがに迷惑だったか。でも、いつも迷惑な顔一つされず、エミに引っ張られたまま無理やり夜に押しかけても、夕飯を振舞ってくれるだけでなく、俺の親にまで連絡してくれるくらい気の利いた方々だしなあ。緊急事態とあれば許してくれたかも。
「はい」
「あ、おじさん」
チャイムを聞いて現れたのは、エミの父親だった。厳格そうな見た目をしているが、話すと気さくなナイスガイだ。
「おはよう」
「おはよう。エミかい」
「はい。今いますか?」
「残念ながらいない。朝早く妻とショッピングに向かった」
「そ、そうですか……」
せ、先手を打たれた。中々都合が合わないものだなあ。
「……ツヨシ君。今から少しいいか」
おじさんの声は、いつになく怒っているようだった。
俺、何かしたっけ?
……した気がするなあ(既視感)。
「はい。大丈夫です」
「そうか。なら入ってくれ」
「お邪魔します」
まあ丁度いい。だったら、おじさんに話してエミとの仲介を担ってもらおう。
そう思って、俺はおじさんに導かれるまま、エミの家にお邪魔した。
おじさんに導かれるまま、玄関を過ぎて、リビングに入った。
「座ってくれ」
おじさんはテレビの前のソファに俺に座るように促した。ソファは柔らかく、腰を下ろすと腰深くまで沈み込んだ。
その隣のソファに、おじさんが腰を下ろした。おじさんは相変わらず、眉間に皺を寄せた壊そう顔をしていた。でも、中身はナイスガイだ。
「単刀直入に聞く。君は……転校するのか」
はい、来ましたー。来ると思ってたよ。
「いいえ、しません」
「嘘はいけない」
「嘘ではないです」
「学校で噂になっているとも聞くが?」
「それは本当です」
何故だかわからんが、いくら否定しても俺が転校する話が覆ることがないのだ。本人がしないと言っているのに、不思議だね。
「だったら転校するんだろう。君は意固地なところがあるから……嘘をついているんだろう?」
今更ながら、なんでそういう話になるのだろう。
「エミが、最近ずっと憔悴しているんだ」
「……え」
エミが?
「君が転校する。最初は朧気な瞳でそう語っていた。でも、間違いだったかもしれない。私達も娘をそう宥めたさ。だがその翌日、学校で君の転校の噂が広まっていたそうじゃないか。
エミは一層、あの話が本当だったんだということで落ちこんだ。妻とエミが今日、ショッピングに繰り出したのも、エミの気を紛らわせるためだ」
「……なんてこった」
なんていうこじは〇〇イパン理論。全部小木が悪い。
そこまで想われていたなんて、と思う気持ちもなくはなかったが、もうここまでくると、その気持ちよりも呆れの方が強かった。収集付くのだろうか、これ。
「……いやすまんな。君は悪くないことなのにな」
おじさんは、熱くなっていた自分を宥めるように頭を掻いた。そのまま俺の話も聞いて欲しいです。
「……私も、まさかこんな日が来るとは思っていなかったんだ」
「え?」
「君になら、エミを渡しても良い。そう思っていた」
少しだけ頬が紅潮した。
「君は……口数は少ないし、意固地だし、少し誤解されやすいところがあるだろう?」
まあ、絶賛誤解されているしな。
「だけど……私はそんな君の溢れる気骨に惹かれていた。いいや私だけではない。エミも。学校の友達だってそうなんだろう。だから君は、生徒会長になれて、たくさんの人に別れを惜しまれている」
まあ、我ながら生徒会選挙を頑張ってぶっ倒れたのはやりすぎだとは思ったくらいだしな。
「……大学はこっちの大学を進学しなさい」
「え?」
「こっちの大学を進学して……ウチに住み込みすると良い。そうすれば転校したって、エミとも、友達とも、私とだってまた会える」
「……おお!」
なんて魅力的な話なのだろう。
まあ、転校しないんだけど。
「……その時まで、しばらくお別れだな」
おじさんは目尻に涙を蓄えていた。
一見すると……感動的なシーンでもないし、二見しても感動的なシーンではなかったわ。
これ、本当にもう転校するしかなくない?
転校してもエミと再会する手立ては手に入ったし、最早転校した方が色々と折り合い付く気がしてきていた。
まあそんな気持ちが微かに芽生えていることとは関係ないし、感傷的な様相を呈し始めておじさんに、俺はそのまま帰宅するよう命じられた。おじさんの気持ちを汲まないわけにもいかず、エミとの仲介役も担ってもらず、むしろ転校の後押しをしてもらい、成果なしでトボトボと家に帰った。
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