旅というには短い時間
江ノ島名物である生しらすを頂き、江ノ電から海岸線を拝んで、そんなことをして学校サボりの時間を楽しんだ。
時たま自分が、我が校を代表する生徒会長の立場であることを思い出し漠然とした罪悪感に駆られもしたが、隣にエミがいることに気付くと、すぐにそんなことはどうでも良くなった。
七里ヶ浜海岸からさざなみの音をしばらく楽しんだ。
まもなく暑くなり海開きもされるが、その前の平日ということもあり、海岸にいるのはほとんどサーフィン客ばかりだった。
「癒やされるね」
「そうだね」
自然からの滾るようなエネルギーを感じたような気がした。二人してすっかり口数が減り、気付けば一時間近くぼんやりと海を眺めていた。
ようやく海を見るのも飽きた頃、俺達は道路へと続く階段を昇り始めた。
階段を昇り終えると、丁度踏切の無機質な音が鳴り響いていた。しばらくして、江ノ電のレトロな車体が俺達の目の前を走り去っていった。
江ノ島をどれだけ満喫したのだろうか。
七里ヶ浜駅に到着すると、高校の制服を着た人達が電車を待っている光景が目に入った。
もう、学校も終わるような時間だったらしい。
漠然とした罪悪感を抱くこともあった。誰彼に対してかはわからないが、そう思ったのだ。
エミが隣りにいるからどうでもいいと思った。
だけど終わりを意識して、初めて俺に罪悪感が呪縛のようにのしかかってきたのだった。
今日が終われば、明日また学校が始まり、そうして休みが来て。そんな時間を過ごして行く内に取り返しが付かなくなり、俺はエミと一時の別れを迎えることになるのだ。
抗う術はない。
それがこれほど辛いとは思っていなかった。
今更、藤平さんが口酸っぱく言っていた言葉の真意を見つけた気がした。後悔するな、か。
「あーあ、そろそろ終わっちゃうね、今日が」
電車の待ち時間、隣にいたエミが背筋を伸ばしながら言った。
「うん」
「今日が終わったら……家に帰って、明日にはまた学校かな」
「うん」
「そしたらまた吹部の練習に忙殺されて、大会に出て、引退して……ツヨシもいなくなる」
「……うん」
「ねえ、ツヨシ?」
ゆっくりと俺を呼んだエミの方を向いた。
エミは、笑っていた。
自分の気持ちに折り合いが付いていないのか。はたまた、俺が受け入れてくれるか不安で緊張しているのか。
そんな内面が滲み出ている曖昧で不格好な笑みだった。
エミに握られていた右手が少しだけ痛くなった。
エミが生唾を飲み込む音が聞こえたような気がした。
エミは……。
「このまま、駆け落ちしない?」




