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転校することになったから、好きな彼女に本心を全て話そうと思う。  作者: ミソネタ・ドザえもん
関係を修復させたいが、関係は修復出来ないらしい。
19/21

海へ行こう

 エミの母親に事情を説明して、学校を休み旅へと繰り出した。


『明日の朝には帰ってきなさいよ』


 旅、というには制約が多い旅だった。だけど、好いたエミと一緒に行ける旅となれば、中々どうして嬉しい気持ちを抑えられそうもなかった。


「さっきからニヤニヤしてどうしたの?」


 そう言うエミもニヤニヤしていた。無粋だから何も言わなかったが。


「ほら、時たま学校を風邪とかで休んでさ。昼のワイドショーとか見ていると、中々興奮を覚えるじゃないか」


「うん、そうだね」


「今の気分はそれに近い」


「本心は?」


「エミと二人きりの旅だなんて転校のことも忘れるくらい嬉しいヒャッホウ!」


 アハハハハ。


「……なんか今、途轍もないことを口走らなかったか、俺」


「ううん。そんなことないよ」


 微笑み首を振るエミの言葉通りなら、まあそうなのだろう。良かった良かった。


「で、どこへ行こうか?」


 ふと、バスに揺られて駅前に辿り着いたところで俺は尋ねた。そう言えば行先を決めてなかった。


「えー、そこはツヨシが決めてよ。男でしょう?」


「男だ何だと言って選択権を委ねるのは差別ではなかろうか」


「男女平等なんて古い価値観よ」


「最先端の考えは何だよ」


「自分良ければ全て良し」


 そういうの自己中って言うんだと俺は思うぞ。だけどフェミニストとか見ているとそういう連中が多いのは頷けるから嫌な世の中だ。


「つまりエミは、俺が決めたところだったらどこでも楽しめるから、決めていいよ、と?」


「あら、随分とポジティブシンキング」


「そうとでも思わないとやってられないからね」


 それはもう色々と。

 ……思い出していたら、再び気落ちしそうになった。こんな気分の時、どこへ行けばいいのだろう。

 彼女のお望みとあらば、その願いを聞き入れるのは出来ないことはない。何せ俺は、ただ選択すれば良いだけなのだから。

 

 いつか彼女に転校の話を信じてもらえなかった時と違い。

 いつか両親に転校したくないと癇癪を起し、無下にされそうになっている時と違い。


 ただ選び、彼女を楽しませるだけでいいのだ。

 なんでだか、それがとても簡単に思えるのは、最近思い通りにならないことが多すぎるからなのだろう。


 ……まあ、多分現実はそんなに甘くないのだろうが。


「エミ、海に行きたいんだけど構わないか?」


 なんだかんだ、俺は根暗な男だった。


「アハハ。根暗男」


「うるさいやい」


 自覚していることも指摘されるとどうしてか気分が良くなかった。


「うん。海かー。季節を考えるとまだ人もいないだろうし、なんだか面白そうだね」


 まあとにかく、エミが了承してくれたことで俺達の旅の行先は決まった。

 東海道線に乗り込み、しばらく電車に揺られた。都会のビル群が減っていき、多摩川を過ぎ、大船で電車を降りた。湘南モノレールに乗り込み、懸垂式モノレールから地上を走る車を見ながら、モノレールは数十分走って江ノ島へと辿り着いた。


「着いた着いたっ」


 ビルから外に出ると、エミが楽しそうにはしゃいでいた。こんなにはしゃぐ彼女の姿を見るのはいつ振りだろうか。


「そんなにはしゃがない。怪我するよ」


「あらあらツヨシさん。転校が嫌で意地張っていた癖に随分と大人ぶるじゃない」


「うぐ」


 それを言われると痛い。返す言葉もなく、俺はそっぽを向いた。


「まあとにかく行こうじゃないか。ここにとどまっていても時間が勿体ない」


「弱虫」


「なんとでも言えい」


 エミの手を掴み、俺は大通りを歩きだした。


「あら、今日は男らしい」


「いつもは男らしくないと?」


「そう聞こえたということは、そう思っているということね」


 ケラケラ笑うエミが憎たらしくて、俺は何も言わず歩調を早めた。

 エスコートというには随分と荒っぽい行為を咎めることなく、エミは俺の後を続いてくれた。


「……そういえば」


 江ノ電の線路を過ぎた頃、エミが呟いた。


「あの子とは、どうなったの?」


「あの子?」


「ほら、藤平さん」


「……ああ」


 歩調を緩めることなく、俺は天を仰いだ。


「彼女、君のことが好きなんだって」


「へえ」


 信じていない声だった。


 彼女は何かと俺の言葉を信じてくれない人なんだと今更思った。


 観光地らしい町並みを歩いて、浜辺を拝み、江島神社へと向かった。どうせだからと江の島シーキャンドルも昇って、高所が苦手なことを思い出して、彼女に怯える体を押してもらいながら屋外の展望デッキを見て回った。

 風が吹き抜けて気持ちの良い日だった。昨晩から今朝にかけて抱いていた後悔、悲壮、別れの全てを忘れられるような、そんな素敵な景色と天気だった。


「少しは気が晴れた?」


 隣にいるエミから言われた。

 いつも通りの無邪気な笑みで、そう言われた。


「うん。少しはね」


 誤魔化すようにそう言った。

 彼女は優しく俺の頭を撫でていた。

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