後輩の告白
廊下を走りながら、小さくなりそうで小さくならない藤平さんの背中を追った。授業が始まる鐘が鳴った。
完全なる遅刻。
生徒会長が授業をサボるとなれば大目玉を食らうことだろう。
だけど、あの状態の藤平さんを置いて授業に迎えるほど、俺のメンタルは強くなかった。
藤平さんは自分の教室に帰る素振りはまるでなかった。むしろドンドンと遠ざかっているように見えた。彼女はそのまま、生徒会室へと逃げ込んだようだった。いつの間に扉の鍵を借りたんだ。ああそうか。さては今日も俺が彼女の手助けを借りたがると思っていたんだな。だから生徒会室で待っていたんだ。
彼女、尽くしたがりな人だな。
どっかの誰かみたいに、誰かのためなら自己犠牲も伴わない。そんな人に見えて仕方なかった。
彼女は後悔するなと俺に言った。
まるで彼女が、これまで大きな後悔でも味わってきたかのように、そう言うのだ。
いや多分、彼女は後悔したことがあるのだろう。もう二度と後悔したくないと思うくらいの後悔をしてきたのだろう。
一体、それはどんな後悔なのか。
恋路のことを、彼女は特に首を突っ込みたがった。それはつまり、日頃の彼女の言葉も兼ねると恋愛関係での後悔をしたのではないか、という仮説を俺に与えた。
彼女は多分、誰かに好意を抱いていた。
恋……はたまた、愛。とにかく、顔を見るだけで胸が締め付けられるようなそんな感覚を抱き、その人の隣に立ちたいと願っていたのだろう。
でも、その願いは叶えられなかった。
理由はわからない。わからないけど……多分、失恋なんだろう。
彼女の失恋相手。
非常階段に繋がる扉の前で、こちらを見ていた彼女は泣いていた。
仲睦まじそうな僕達を見て……泣いていた。
扉をノックし、生徒会室に入った。
荒れた息を整えて、何かを言おうと息を吸った。
「なんで先輩が来るんですか」
藤平さんが怒声を上げた。
彼女が好意を抱いたその人は。
彼女が失恋したその人は……。
……。
「あんなタイミングで泣き出して走り出して……もう追ってくれと言っているようなもんだ」
いつか、彼女にパセラに行こうと誘われた。
「……何かあったの?」
いつか、彼女にエミとの関係修復の手引きをしてもらった。
「聞くのは野暮かもしれない。でも教えてくれよ」
いつか、彼女に……。
彼女が好意を抱き、失恋した相手は……俺なのだろう。
罪作りな男だな、俺は……。
藤平さんのすすり泣く声が、俺に涙を見せたくないのか、彼女の背中から聞こえた。
「好きだったっ!」
怒声のような……悲痛な叫びだった。
「好きだった。ずっと好きだったの。中学の頃から、あたしにとってずっと大人で……憧れの人だった。中々声がかけられなくて仲良くなれる機会も少なくて、それでも何とか仲良くなりたいって思って、いつの間にか少しずつ感情が変わっていった。いつしかその気持ちが好意に変わっていた!」
……こういう時、なんて言えばいいのかわからなかった。
ただ俯いて……謝罪の言葉を探していた。
「でも、知っていたんです。ずっと知っていたんです。好きな人がいることは……ずっと知っていたんです。
それでも諦めきれなかったんです!
好きだから諦めきれなかったんですよっ! 今でもずっと好きなんですよ!」
ようやくこちらを向いた藤平さんは、やはり泣いていた。
そんな彼女をもっと泣かす酷いことを……俺はこれから言わなければならなかった。
「エミ先輩のことがずっと好きなんですよっ!!!」
「ん?」
ん?
うーん。
……ん?
「エミのこと、好きなの?」
「好きですよ。先輩なんかよりずっと好きですよ!」
「あ、はい」
思いの丈をぶちまけたからか、藤平さんは床に座り込んだ。えんえんと泣く彼女に、俺は酷い言葉をかけられず、最早どうしていいかわからなかった。
「どうして先輩が来るんですか……」
「ごめん……」
……。
罪作りな人だな、エミは。
ハハハッ!
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