昼休み、現れるあの人
朝、エミと一緒に登校し、教室に辿り着いた。さっきまで楽しい気持ちでいっぱいだった今日だが、今初めて少しだけ憂いを感じていた。
嗚呼、また今日も転校による惜別ムードが始まるのか、と。
エミとじゃれていたせいでいつもより遅くなった登校。教室は廊下からもわかるくらい喧騒としていた。その中に入っていくのか、と思うと更に気が滅入った。
ガラガラと扉を開けると、視線が一気にこちらに向けられた。
始まる。少し覚悟をした。いつまでも慣れない惜別ムードが始まる。
覚悟を決めるように歯を食いしばって、
「おめでとうっ! ツヨシ!」
何故だか俺はクラスメイトから祝福されたのだった。
……これは、あれか?
お前が転校するやったぜ! おめでとう! サヨナラ!
的なことだろうか?
だとしたら軽く彼らを軽蔑するし、何なら既に腸が煮えくり返りつつある。酷い! なんて酷い奴らだ!
「いやー、お前はやると思っていたよ。ツヨシ!」
あまりよく知らない会田君が俺を褒め称えてくれた。そんなに褒めても怒るだけだぞ。
そろそろ怒ろうか。
そんなことを考えていた頃、
「いやー、まさかお前がエミ先輩と付き合うだなんてな」
俺は先ほどまでの彼らへの無礼を詫びていた。
……。
意地はってごべーん!
おれが悪がったァー!
頼むから、俺を船から降ろさないでくれ。
「って、なんで知っているんだよ。そのこと」
しばらくして俺は気付いた。
なんでクラスメイトは俺とエミのことを知っているのだろう。
て、それも言ってから気付いた。
「なんでって、あんなにたくさんの人の前であんなにしていればね」
「確かに」
ぐうの音も出ない。
その通り過ぎる。
さすがにあの状況ならば、吹奏楽部の皆から俺とエミのことは伝わっていくのだろう。
「いやあ、良かったよ。二人がキチンと結ばれて」
「ねー。ツヨシ君、転校する前に結ばれて良かった。おめでとう」
いつか名探偵みたいな推理力を見せた女子達が祝ってくれた。
み、皆……。
なんて優しいんだ。彼らは。こんなに優しい彼らに対して、怒るとか言っていた糞野郎がいるらしい。
……。
意地はってごべーん!
おれが悪がったァー!
そんなこんなで朝の一幕を終えて、授業が行われ、昼休みがやってきた。
今日はどこで昼ご飯を食べようか。
そんなことを考えながら、ぼんやりと外を眺めていた。
「ちょっとちょっと、ツヨシ君」
「へ?」
一人の女子に呼ばれた。扉の前にいる彼女の方を見ると、そこにはエミが立っていた。
クラスメイトが湧きたつ。完全なる野次馬だ。
「どしたの」
俺は尋ねた。
「やっ、ツヨシ」
少しだけ気恥ずかしそうに、エミは言った。
「お昼どうするつもりだった?」
「え?」
どうするって、いつも通りだけど。
いつも通り……あ。
「弁当忘れた」
というか、いつもなら置いてあるはずの机に置いてなかった。母親め、俺のご飯を作り忘れたな。
「おばさんに言ったの」
エミが言った。
「何を?」
「ツヨシのお弁当は、あたしが準備してますって」
「へえ」
……つまり?
俺はこれから、エミの手料理を食べる。そういうこと?
ほほう。
「行こっ」
エミに手を引かれ、教室を飛び出した。
背後からヒューヒューと俺達を茶化す声がした。




