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アリウムの罠~におい立つ恋~

 旅の理由は十人十色。

 例えばお宝を探すため、もしくは魔王を倒すため、一つ気張って救世主としてこの世の中を救うため! どんな壮大な理由でも人によりけり、よりどりみどり!

 ……だが、しかし。そんな人に誇れる理由のある旅人なんて、大長編の名作の小説の主人公を張れるような奴だけだ。

 え? 「人に誇れる理由のない旅人」ってどういう奴かって? 何を隠そう、それはまさにこの僕だ。今年でちょうど二十歳、絵に描いたような草食系男子、バジル・バジリコ!

 ……うう、自分で言っててどんどん(むな)しくなってきた……。

 まあざっとはしょって話しますとね、このバジル、片田舎の小さな家の一人息子な訳ですよ! 幸いにして頭の出来はそんなに悪くはなかったので、十六歳で白魔術師の資格を取って細々稼いでたんですが、一年も経つと両親がめっちゃ心配し出しまして!

『バジルぅう! そうやっていつまで独り身でいる気じゃああ! このままでは家の血筋が絶えてしまうわぁ! 旅に出ろ旅に!! 男磨き&嫁さん探しの旅に出ろぉおお!!』(←大意)

 ……と、まあそういう訳ですよ。だから僕の旅の理由は「草食系男子の男磨き&お嫁さん探し!」というものなんです! ほらね、全く誇れる理由じゃないでしょう?

 ってっか大体、仮に「わ、あの(ひと)可愛い~! お嫁さんにしたい!」なんて思ったところで、声かけられます? 何てお声がけするんです?

『やあ! 僕は遠い国の片田舎から男磨き&お嫁さん探しの旅に出ているバジルっていう男だよ! 僕は君が気に入ったから、今晩にでも僕のお嫁さんとして僕ともっこりしないかい?(キラーン)』とか言うんですか? 言えるかぁああ!! 大体ね、そういう時に自分から声をかけられないから草食系とか言われんですよ!!

 嫁さん探し!? 男磨き!? んなもんどうやれってんですよ!! 旅してた今までの十七から三年間、一回も、そうただの一回も色っぽいことがないってーのに!! ねえこれってばもしかして、一生お嫁さんなんて持てずに旅の空でヨボヨボのおじーちゃんになって果てるって鬼フラグ!? 最悪だぁ~~!!


* * *


 ……お? 宿の夕食食べながら内心でシラフでくだ巻いてたら、気がつけば向かいのお姉さんがすっごい美人! 彼女も一人でご飯食べてる……フリーかな……。

 って向かいのテーブルのお姉さんがいくらむちむち美人だろうと、前述の通り僕には一切関係ないんですけど~!!

 っていうかクッサ~~!! この宿の食堂にもうもうと立ち込める鼻を衝く悪臭! 何だよもうさっきっから気になってたけどこのもの凄いニンニク臭!! この中の旅人の誰だかが昼食にアヒージョむさぼり食ったんか!? お前か!? ナナメ向こうのテーブルにいるおっさんよ、お前なのか!?

 ……ってうわ、例の美人と目が合った! とっさにスマイル! それでさりげなく目をそらす! ……ふう、毎度の僕のスルースキル炸裂だ……。ってか毎回こんなことしてるから、お嫁さん候補の一人も見つからないのかな……。

 ……え? え?? なになに!? 美人が自分の夕食のトレイを持ってこっちに来たよ!? っつ~か臭ぁぁあああ!! お前か~~!! ニンニク臭の源泉(みなもと)は~~!! なにお姉さん、もしかして三時のオヤツにアヒージョをサラダボウルで平らげた!? 見た目に似合わず豪快な食べ方する人だな~!!

「ふふ、目が合っちゃったわね。ね、あなた一人? あなたも長いこと旅してるの?

あたしはアリウムっていうの。アリウム・アーリアムリ。体臭が独特な人外、アーリアムリの一族でね、ほんとは植物妖精フェアリア・プランタの一種なの。歌って踊って路銀を稼いで、世界中を旅してるのよ!」

「へえ~、そそそ、そうですか……」

 分かったアリウム! 分かったから! 離れてくれ!! 臭いがキツすぎて鼻血が出そうだ!!

「ねえ、あなたは何で旅をしてるの? あたしは自分の芸磨き! そうしてお婿さん探し!」

「きききき奇遇だなあ! ボクもお嫁さん探して旅してるんですよ!」

 はっしまった!! あまりの悪臭にもうろうとして余計なことを口走ってしまったあ!!

「へえ~そうなんだ! ……ね、あたしみたいな女、どう?」

「へっ!? いやあこんな美人さんがボクのお嫁に来てくれたら言うことないですね(ニオイさえなければ~~!!)!!

 ででででも、あなたがこんな冴えないボクのお嫁さんなんて釣り合わないですよ! ボクにはあなたはもったいない!!」

「あら、そんなことないと思うわ。何ならベットで試してみる?」


* * *


 っえっ何? 何この展開??

 何で今僕は自分の泊まってる部屋に、アリウムと一緒にベットにいるの?

 いやいやないよ、ないって! いくら美人でもこの鼻がもげるほどの悪臭、これは僕から断らねば!

「……あの……大変申し上げにくいんですが、僕はあなたとはそういう関係には……、」

 言いかける僕をベットの上に押し倒し、アリウムが舌を差し入れるキスをした。いやそのキツイ臭いと言ったら!

 しかし何ということだろう……煮詰めたニンニクのようなその激臭が、僕の体の中心に毒のように火をつけたのだ! その飛びきりのニンニク臭が、僕にとって最上のフェロモンのように感じられてしまったのだ!

 これは何としたことだ、危ない、もうこれ以上は後戻りできない……! そう思いながらも欲情に火のついた体は止まらず、ついに僕は……ついに僕は……あっ待ってこれ以上詳細に描写するとR-18になっちゃうからここで〆!(メタ展開!)


* * *


 翌朝、僕は呆然と部屋の天井を見つめていた。しかもまっぱだか。もうろうとした目を横に向けると、となりでアリウムもまっぱだか。

「……えっちょっと待って何コレ……自分で自分が理解できない……!!」

「ふふ、何も不思議なことはないわよ。

あのね、あたしの故郷では『アーリアムリの生き血はスッポンより良く効く!』って言われてね、めちゃくちゃ高価な強壮剤に使われてるの!」

「してやったり」という美女の笑顔に、僕は泣きべその顔で世界一情けない叫びを上げた。

「う……うわ~だまされた~~!! 返してボクの貞操を~~!!」

「あら、こっちだっておあいこよ。あたしが処女だったって、昨夜(ゆうべ)は確かに実感したでしょ?」

「ぐ、ぐうう……!」

 そう言われると返事に詰まる。そう、何をどうしても彼女は処女だった。今ではこんな余裕ぶって話しているけど、「血」とか「痛がる」とかのレベルじゃなく、ひどい時はどう考えても演技じゃない怯えっぷりで、震えて泣いていたのだから。

「……それにね、本当言うとこんなニオイでも、言い寄る男はいくらもいたの。でも誰もかれも全く好みじゃなかったの。どいつもこいつもあたしの見た目に()かれるばかりで、生肉に食いつく猛獣みたいにガツガツしてて……。

 でもあなたは正直どんぴしゃタイプだったの! 気弱そうで優しそうで、好き合ったらとてつもなく大事にしてくれそうで! それにね……、」

 アリウムはほんの一瞬、真夜中の恥じらいを蘇らせて、甘酔いの花のような笑顔で告げた。

「ゆうべはホント素敵だったわ! 紳士的なケモノみたいに、優しいけれど激しくて!」

「~~うわ~~お父さんお母さ~~ん!! ボク!! 遠い異国の地でめっちゃ臭うお嫁さん見つけちゃいました~~っっ!!」


* * *


 と言う訳で(どういう訳だ)めでたく草食系男子の僕は、肉食系ニンニク美女の奥さんを見つけ、旅を終えて故郷に戻っていったのです……。

 ちなみに故郷の人々は「みんなで臭えば気にならない!!」と毎朝ガーリックバターを塗ったくったトーストにかぶりつき、日に一食はアヒージョをむさぼり食らうようになったのです!

 え? 愛するアリウムの体臭? うん、慣れると素晴らしい匂いだよね!! うん、分かってる。惚れた弱みっていう奴ですよ!!

「あなた~! 夕ご飯が出来たわよ~! 子どもたちもいらっしゃ~い!」

『は~い!!(×4)』

 そうしてただよう、ニンニクの濃密な幸福の匂い……いや、どこぞの国では「ニンニクはバニラの香り」とか言うらしいしね! 無問題(モウマンタイ)だよ!!

「うん、美味しいよアリウム、このポトフ! 最初にベーコンと炒めた大量のニンニクがめっちゃ効いてる!」

「うふふ、そう? 精ついちゃう? 子どもたちが寝たら……あなた、今夜も……」

『ね~ママ、パパ、毎日言ってる「今夜も」ってどういうこと~??(三つ子)』

『ふふ、ヒミツ~~!(仲良し夫婦)』

『え~、何で~~!? ケチ~~!!(×3)』




 この話は、単なる小話、笑い話。

 でも嗅ぎようによっては、バニラの香りの甘いお話。(完)

 夕食のマーボー豆腐用にニンニクすってて思いついた小話です……。

 ネタってどこにでも転がってるもんだねえ……(遠い目)

 ちなみに投稿型サイト「ノベルデイズ」にもこの話のチャットノベル版をあげてます。よろしければご賞味を!

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