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2番目

 目を開けると、そこは中学校の教室だった。黒板に書かれた日付をみる。この日は確か、一番大事な物を発表する日だった。各々好きなものを学校に持ってきてその物との思い出や、大事である理由を話した。

 なぜ覚えているかというと、この日事件があったからだ。ある少女の大事な物が盗まれ壊された。犯人は見つからず、うやむやになった。

「まさか」

 慌てて少女の席に向かう。まだそれは美しさをたたえていた。光に透けるような綺麗なスカーフ。繊細なそれを眺める。それはもう二度と見ることの出来ないと思っていたもの。

 触れてみたい気持ちはあったが、触れてしまうと過去のような無残な姿になりそうで触れることは出来なかった。

 がらっ

 突然ドアが開く。今は体育の時間でこの教室には誰も来ないはずだった。来るとすればこのスカーフをバラバラにした犯人だろう。

「ふ、あった」

 そこには自分がいた。

「嘘だ。あの時」

 そうあの時体育で怪我をして、保健室に居たはずだ。混乱するが事態は進んでいく。子供は触るのを躊躇した繊細なスカーフを無造作に手に取ると、もう片方の手に持っていた鋏で切り裂く。綺麗な物が壊れる瞬間に、己を忘れて魅入った。

 あれをやったのが自分だと知って、なぜか嬉しさがこみ上げる。変わり果てた姿を見たとき、悲しかったのは自身が関わらない場所で壊れたと思ったからだ。

「あれは私、いや、俺の手によって壊れたのか」

 慈しむように、足元に散らばる布きれをみる。子供も同じように足元を見つめて、唇を歪ませた。

「きれい」

「ああ、きれいだ」

 瞬きと共に場面が飛ぶ。スカーフを持ってきた娘が布きれを胸に抱き、涙を流す。その様子も素晴らしく美しかった。

 頬を流れる雫は永遠に見つめたいほどで、それを流す娘すら壊したかった。

「今……」

 何を考えた?

 娘を壊す?

 頭が割れるように痛む。守れなかったスカーフの残骸をみる。その瞬間に胸に罪悪感が溢れた。あの時、手に取ればあのペンのように守れたのに。

 そうしなかった。それどころか壊したい?

「私はどうしたんだ?」

 ふと顔を上げればあの子供は、気の毒そうにその娘をみている。その瞳は自身が犯した罪など知らないという澄んだものだった。

 くらりとした目眩と共に意識を失った。

 目を開けるとそこは真っ暗な空間だった。相変わらず足跡と手形は光っている。

 周りを見渡すとまた1カ所だけ変わっていた。部屋の一角の展示場のようなテーブルが増えた。ペンが乗っている机とは対角に置かれたそれも光っていた。しかしその光は他の光と違い黒い光であった。それの上には布きれになったスカーフの残骸と、娘が流していた『涙のように透き通った玉』が置いてあった。

「あれは」

 守らなかったことを責めるように、テーブルはゆっくりと点滅する。

 自分の事がよりわからなくなった。なんなのだろうか。

 あの時の記憶はない。だからこそ罪なのだろうか。自分の体の中に悪魔が居るようだ。抑えが効かない誘惑を無意識で行う悪魔。

「3番目」

 その瞬間にまた周りで光っているものが、素早い点滅を始める。

「思い出した?」

 どこからかまた声がした気がした。

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