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1番目

 そこは小学校の教室。今からみるとずいぶん小さい机や椅子が置かれている。それらを懐かしげに撫でる。

 この教室は小さな頃に通った場所であると、わかった。

 まず、1番目。その言葉は胸をえぐる。どれほど続くのだろう。不安に思う気持ちを抑えて、教室の後ろに向かう。

 そこには高そうなペンが落ちていた。これはこの教室で一番お金持ちだと自慢する娘が持ってきたものだ。しかし所詮は子供である。鞄にしまったはずが、落としてしまったのだろう。今みても飴色の綺麗なペンだ。こんなものが落ちていたら思わず持って帰ってしまうだろう。

「これが1番目」

 今から幼い自分がここに来る。たまたま忘れ物をしてしまったのだ。そしてこのペンを見つける。あとは想像の通りだ。それをポケットにしまって見つからないように、当時の秘密基地に持って行く。そこでずっと眺めるのだ。それが罪とは思わずに。

 お金持ちだと自慢する娘は親に怒られ、その後その娘はずっと周りに疑惑の目を向けて、孤立する。その後は病んで、人間不信になり家に引きこもった。

 その後のことは知らない。一人の人間の人生を狂わせたという罪。しかし当時は、その娘ともあまり交流がなかったせいか罪の意識は生まれなかった。

 それどころか、『ざまあみろ』と思ったことを覚えている。しかしその娘の強烈な瞳だけは忘れられなかった。燃えるような暗い炎を宿した瞳。それを綺麗だと思った思いも。

「その思いこそが罪」

 ペンを拾い上げた。そこに駆けてくる小さな子供。その子は自分の机に一目散に向かうと、忘れ物をとって走り去って行こうとした。しかしその動きを止めた。

 そして振り返った。何かが目に入ったのだろうか?

「ペンはなかった」

 その言葉で血の気が引いた。今顔を見れば、真っ青だろう。

 そうだ。もう罪は犯されていた。ペンを抜いて地面に転がしたのは紛れもなくこの子なのだ。

 小さな頃から罪人なのだ。

「どうして」

 少し悔しそうに、唇を噛んだ子はそのまま背を向けて駆けていった。

 手からペンが落ちる。

 カタン

 地面に落ちた音と共に意識を失った。それでも体の震えは止まることはなかった。

 罪を思い出さなければならない。それがあの空間に来た意味。今まで犯してきた罪を全て見つめ直さなければいけない。そして全てを無に返すことが出来れば帰ることが出来る。あの地獄へ。

 目を開けるとそこは真っ暗な空間だった。相変わらず足跡と手形は光っている。

 周りを見渡すと1カ所だけ変わっていた。部屋の一角に展示場のようなテーブルが置かれていたのだ。そのテーブルは光り、上に乗っている物の存在を強調していた。

「ああっ」

 そこにはあのペンが乗っていた。まるで忘れることなど許さないと言うように。

 そしてそのペンの横には、赤黒いまるであの日みた『燃えるような暗い炎を宿した瞳』のような玉。そのどちらも今でも魅入ってしまう魅力を発していた。

 ふらふらとそれに近づいたのは無意識だった。しかしその行動を阻むように声がした。

「2番目」

 その瞬間にまた周りで光っているものが、素早い点滅を始める。

「許さない」

 どこからか声がした気がした。

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