はじまり
ドックン、ドックン
パリィン、シャクッ
心拍音と、何かが砕けるような音が耳元で響く。その音に促されるように目を開けた。そこは光る道が続く不思議な場所だった。勝手に足は動き続ける。前に進む様子をぼんやりと夢心地で見ていた。不意に視界の靄が晴れたように意識がはっきりしてくる。
周りは闇だ。この光る道を外れれば命はないかも知れない。
光は月の光のようにぼんやりとしている。よくよく見ると、道は小さな石で出来ていて、その一つ一つが光っていることがわかった。
足は相変わらず勝手に動く。進んでいる速度は一定で、全く疲れない。
道の先をみると、しばらく先に光る扉が見えた。その扉に向かって歩いているみたいだ。まったく自身の状況が掴めない。
服装はTシャツにジーパンだ。靴も量産品のスニーカーだ。それはいつもの格好といっても過言ではない。しかし一点だけいつもとは違うところがあった。それは全て真っ黒なのだ。まるで染めたかのように。
光っている道が扉に近づくにつれてまるで水たまりの上を歩いているような感覚になった。足元をみると、水がはねるように光の玉が飛ぶ様子が見えた。
そして一際大きく光がはねる。そこが扉の前だった。
扉はまるで向かい入れるかのように、勝手に開いた。足は扉の中に入った瞬間に、自分の意思で足が動かせるようになる。
扉は固く閉まった。この部屋は外とは違って真っ暗だった。ただ足元だけが光っている。一歩踏み出すと足跡のスタンプのように地面に残った。それは外の道と同じようにぼんやりと光っている。
恐る恐る前に進むと、足音が響く。どうやら大きな部屋のようだ。足跡のお陰で少しは部屋のことがわかる。ただわかるのは何もないということだけだった。
トンッ
壁にたどり着いた。壁に手をつくと、手が光った。そして足跡と同じようにスタンプのように壁に残る。しばらく壁をペタペタと触っていると急にその部屋が明るくなった。
そしてまるで母親のような安心する声が部屋に響いた。
「ね、あなたの名前は?」
「えっ?」
声を出したことで喋れることがわかった。
「なまえ…… 響」
「そう、響。あなたはどうしてここに居るかわかる?」
「わか」
わからないと言うつもりだった。実際どうしてこんな場所に居るのかなんてわからなかったから。でもどうしてだろう、不意にここに居る理由がわかった、思い出したのだ。
「わかる」
「そう、良い子ね。じゃあ、これからすることもわかるわね」
「うん」
熱に浮かされたかのような、気分になる。まるで小さな子供になったかのようだった。
それでも背筋を伝う汗は嫌なものだった。今から自分が行う行為があまりにも現実から乖離していたからかもしれない。
ガシャン
その音と共に、光が消えた。いや、足跡と手形は残っていたが、それらは点滅していた。
「まず1番目」
ふと意識が遠のいた。点滅が早くなるのと同時に意識を失った。




