9本目 メロンソーダ
友達伝いに届いた伝言を頼りに生徒会室に行く。片手には買ったばかりのメロンソーダが握られている。着崩した制服、顔の左に大きなガーゼ、喧嘩で出来た目の上の傷、それらを見て、廊下の真ん中でキャッキャッとふざけていた男子生徒は廊下の脇により、女子は顔色を変え教室に逃げるように駆け込む。生徒会室の扉に手をかけると見ていた男子生徒2人がヒソヒソと話しているのが聞こえた。
「どーせまた生徒会長に呼び出されたんだろ…」
「絶対そうだ…会いたくなかったよ…はぁ…」
そんなことは気にもとめず、ずかずかと生徒会室に入る。
「来たぞ。」
居たのは生徒会室ではなく、副会長の水野だった。肩までショートカットの綺麗な黒髪を揺らしながら振り向く。左目の下のホクロと笑うとできるエクボがとても可愛い。
「木島君!良かった〜来てくれて!」
「お、おう。」
「どうしたの?顔赤いよ?熱があるんじゃ…」
そう言いながら近づいて、木島の額に手を伸ばす水野の手をやさしく弾きいた。
「な、なんでもねーよ!で、今日は何で呼び出したんだよ。」
「あっ、えっとね…」
水野は机の上にドンッと効果音が付きそうなほどの量の数学と国語の教材を置いた。
「な、なんだ…これ…」
「木島君、次のテストで数学と国語で40点取らなきゃ三年生になれないって先生が言ってたから、一緒に勉強しようと思って、青山先生に頼んでいつでも貸してくれるようにしたの!」
「・・・いいんだよ。俺は進級できなくたって。二年に上がれたのも奇跡みてぇーなもんだしよ。」
そう言って扉のほうを向くと、グイッと左手のすそを引っ張られ、振り向くと水野が木島の制服の左腕裾を少しだけつかみ、上目使いでこういった。
「いや…ですか…?私と…勉強するの…」
「い、いやじゃねーけどよ…俺、勉強できねーから水野に迷惑かけちまうからよ…」
「・・・じゃあ、私が迷惑じゃないって言ったら一緒に勉強してくれる?」
「水野がいいなら…やる。」
「よかった!じゃあ、今日の放課後からでいい?」
「おう。俺に予定ないからな。」
「ありがとう!あ、あと5分しかない!木島君、今日の放課後にまた!」
「おう。」
水野が、出した教材を持とうとすると横から「ん。これやる。」と言ってメロンソーダを木島が渡した。
「いいの?ありがとう!」
と水野が受け取ると、木島がひょいと教材を横取りした。
「あっ木島君!悪いよ…私持てるから…」
「いいんだよ。重い荷物は男が持つもんだから、これどこもっていくんだ?」
「国語教材準備室だよ。青山先生のところ。」
「あーあのいけすかねぇナルシスト野郎のところか。」
「そんなこと言っちゃだめだよ。怒られちゃう。」
「いいんだよ。口が悪いのが俺の個性だ。」
「フフフ」
水野は、夏を彩るひまわりのように笑った。
「荷物持ってくれたり、面白いこという木島君のこと、私すごく好きだよ。」
「すすす、好き?」
「あれ?木島君また顔が赤いよ?今度は耳まで…大丈夫?やっぱり…」
「だー!うるせぇーよ!」
あと一話で終わりです・・・