8本目 サイダー
3時間目の授業中。夏のためプールが使われ、今はだれもいない体育館。そんな体育館の倉庫で備品整備をしているあいつの元へ行く。右手には一階の自動販売機で買ったばかりのサイダーを持っている。
倉庫を覗くと丁度バスケットボールを出しているところだった。
「おーい!」
「あっ先輩。」
「頑張ってるなー」
「頑張ってますよ。」
「そんな後輩君に差し入れをあげよう!」
後輩君に持っていたサイダーを渡す。笑顔で「ありがとうございます。」という。のどが渇いていたのだろう、お礼を伝えるとキャップを開け、サイダーをゴクゴクと勢いよく飲んでいる。よく見ると後輩君のおでこや首筋には汗が流れている。風通しの悪い夏の体育館でいれば汗だくになるのも無理はない。
「先輩と同じ学校の先生になれてよかったです。」
「なんだよ急に」
サイダーのキャップをしめ、後輩君が唐突にそんなことを口走った。
「いや~先輩みたいに気が利く人がいないと俺たぶんここにいません。」
笑いながら後輩君はそんなことを言った。
「だろ~!」
「はい。あの先輩。」
「なんだ?」
「先輩って、彼氏とかいますか?」
「いや、いない・・・。なんでできないんだろう・・・」
「たぶん先輩の男勝りな所じゃないですか?気が利くところはいいと思いますけど。」
後輩君がバスケットボールの群れから一つ取り、磨き始めた。
少しして、後輩君が口を開いた。
「先輩。」
「ん?なんだ?」
「・・・もし俺が、告白したらどうしますか。」
「後輩君が私に告白か・・・仕方によってはオッケー出すかな~!」
「なるほどな~」
「なに?告白してくれるの~?」
「どうでしょうね~」
二人で笑い合っているとチャイムが鳴った。
「あっ次授業だから!」
「頑張ってくださいね。」
「うん!後輩君もな!」
後輩君に手をふり、体育館を後にする。
「なんだよ・・・好きだから待つけど・・・遅いと私から行くからな・・・」
ニヤケそうになる顔をパンパンと叩き、授業の準備物を取りに職員室に向かった。