5本目 缶コーヒー
カタカタとパソコンのキーボードを打つ音が響く夜の職員室。昼のうるささが嘘のように静まり返っている。それもそのはず、よく喋る体育の先生も、タイピングの早い情報の先生も、電話の対応をしている先生もみんな仕事を終わらしもう帰っているからだ。今いるのは私と同僚の長野先生だけだ。私は飲み物を買うために仕事を一区切り付け、財布を持って一度職員室を出た。
「えっと…長野くんは、ブラックコーヒーだっけ。」
独り言を呟きながら自販機に130円をいれ、ブラックコーヒーのボタンを押す。ガコンとでてきたブラックコーヒーをアチアチとハンカチに包み持つ。自分は隣の砂糖多めのコーヒーにした。
2つの缶コーヒーをハンカチに包んで持って、職員室に戻る。
「長野く〜ん。ほい!差し入れ〜」
「えっ?あっありがとう。てか、学校でくんはやめてくれ…」
「いいじゃん。ほかの先生居ないし、小学校からの友達でしょ〜?」
「そうだけど…あっコーヒーのお金…」
「いいよ!私のおごり!」
財布を出しかけた長野くんを止める。
「ほんと?じゃあ今度なんか奢るわ。」
「やった〜!じゃあ駅の近くのお弁当屋さんのステーキ弁当ね!」
「は!?あれ、980円だぞ!?」
「えっ?なんでも奢るんでしょ?」
「はぁ…わかったよ…」
苦虫を噛み潰したような顔をして、コーヒーに口をつける。
「あ〜ブラックうまぁ〜」
「よかった〜」
手を上げ、「う〜」と背中を伸ばす長野くんを見て、思い出したことを聞いてみた。
「そう言えば、長野くん。」
「ん?なに?」
ズズズとコーヒーを飲む長野くんはこっちを向いている。
「高校2年の時にさ、私の事呼び出してなにか言おうとしてたよね?何言う気だったの?」
「ゴフォッ!な、なんだよ!急だな!」
コーヒーを危うく吹きそうになっている長野くんを見てニコニコとしている。
「いやぁ〜何となく思い出したんだ〜」
「そんなこと思い出すなよ…」
「それで?なんて言おうとしてたの?」
「えっーと…」
わかりやすく口ごもる長野くんをニタニタと眺める。
「えっと?」
「あ、あれは…雪音に…」
「私に?」
「告白…しようとしてました…」
「やっと教えてくれた!」
「あの時は…勇気が出なくて…」
「そうだったんだ〜!もう告白しないの?」
「えっ?」
驚いた様子でこちらを見る。そんな顔も可愛い。
「付き合って…くれるの…?」
「さぁ〜?告白してみたらわかるんじゃない?まぁ、まだ好きなら…だけどね!」
長野くんは立ち上がり、私に目を合わせる。
「雪音。」
「はい。」
「小6の時から…好きでした!こんな俺でも…付き合ってくれませんか!」
キュッと目をつむり、私に手を伸ばす。付き合ってくれるなら手を握って欲しい、ということだろう。私は長野くんの手を握る。
「私も、ずっと好きだったよ。やっと言ってくれたね。」