4本目 イチゴオレ
放課後、部活をするために、美術室に向かう。美術室の扉は開いていて、中には1人の男子生徒がキャンバスに向かって真剣な顔をしている。キャンバスには学校の中庭にある噴水を中心に描いた風景画だった。よく描けているが、なにか物足りない。扉を閉めると、男子生徒はこちらを向いた。
「村山先輩…今日は部活おやすみですよ?」
頭をワシャワシャかいて、眠そうにあくびする。タレ目の目尻には涙が見える。あくびを手で隠しているが指の隙間から八重歯がチラチラしている。制服を汚さないために着ている真っ白のはずのエプロンは絵の具でカラフルに色付けされている。
「私は絵の仕上げよ。コンクールまで1週間きったからね。猫くんは?」
「僕も絵の仕上げです。あと、僕は猫じゃなくて才苗です。勝手に人の苗字を組み合わせて、あだ名にしないでください。」
「可愛いじゃない。猫くん」
「・・・村山先輩がそう呼びたいならいいですけど。」
「あら?ツンデレ?」
「違います。」
キッパリと言いまたキャンバスとにらめっこを始めた。また難しい顔をしている。私は学校のバックをおろし、机の上に置く。中からイチゴオレと抹茶オレを取り出し猫くんの横に行く。
「ほら、怖い顔してないで、どっちがいい?」
「・・・じゃあ、こっちで…ありがとうございます。」
猫くんは左手に持っていたイチゴオレを受け取る。横についているストローを取って、「ココにストロー」と書いている場所に刺す。
「あら、可愛い方を選ぶのね。」
「あの、村山先輩。これ、なにか足りませんよね?」
猫くんは私の言ったことを無視して、絵のアドバイスを求めた。
「そうね〜ここをこうして…ここはこの色にしたら?」
「なるほど…そっちか…ありがとうございます。」
「いいのよ。頑張って。」
「はい。」
猫くんに背を向け、描きかけのキャンバスをセットし、絵の具を準備したら椅子に座り、まだ塗っていないところに色を塗り始める。
少しして、沈黙を破ったのは私だった。
「ねぇ、猫くん。」
「才苗です。なんですか。」
「私、猫が好きなんだけど。」
「はい。」
「才苗くん。私、あなたのことも好きなんだけど。」
「はい。えっ?」
「この絵で今回のコンクール、金賞を取ったら私と付き合ってくれないかしら?」
「えっ!?えっと…はい!」
「よかった。」
後ろを振り返ると耳まで真っ赤にした猫くんが筆を落としていた。
けものへん「犭」って「才」に見えますよね。私だけですかね?