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恋と自販機  作者: 江菓
1/10

1本目 ホットココア

冬の寒さでかじかむ両手で包み込んで2本のホットココアをあの人の元まで走って持っていく。自動販売機のある1階からあの人のいる教室まで駆け上がった。放課後の廊下を歩く。窓からは外で大きな声で掛け声をあげて外周を走っている運動部がオレンジ色の夕日に照らされているのが見える。ほかの教室とは違いまだ電気がついている教室を覗き込む。

「せーんせ!」

呼びかけると机がわりにしている教卓の資料から顔を上げ、こちらを向く。黒縁のメガネをかけた童顔、25歳なのに同い年に見える。

「あっ、谷本。まだ帰ってなかったのか。」

「まぁね〜ほい!先生頑張ってるからさっき買ったあっっったかいココアあげる〜!私の奢りだよ〜!」

先生の手のひらにココアを置く。先生は「ありがとう。」といった。ココアをあげて空いた手でスカートのポケットに入っている小さな手紙も渡そうとしたが、恥ずかしくて、渡した後が怖くて、手紙を出すだけして背中に隠した。

「そうだ!ココアくれたし谷本には先生の朗報を教えてやろう!」

「えっ!ほんと!なになに!」

「みんなにはいつか言うけどそれまでは内緒だぞ?」

「おっけ〜!」

先生に2歩だけ近付く。先生は笑顔と嬉しそうな声のセットでこう言った。

「俺、結婚することになったんだ!」

「えっ…ヘ、へぇ〜!よかったじゃん!先生ドジだけど優しいし面白いから奥さんは幸せだね!」

「ドジは余計だろ!」

先生は笑いながらそう言う。「そうかな〜?」と私も笑いながらそう答えた。泣きたい気持ちを心の奥に無理やり押し込めて、手紙を握る手に力が入る。

「まぁ、おめでと!あーもう私帰らなきゃ!末永くお幸せに〜!」

「おう!ありがとう!気おつけて帰れよ〜!」

「は〜い!バイバーイ!」

笑顔の先生にココアを持った方の手を振り、教室から出た。そのまま階段まで走った。階段の前まで行くと、息切れとしゃくりが一緒に来て上手く呼吸が出来ない。いつの間にか目から涙が溢れていた。止まらない涙をコートの袖で拭きながら、階段を歩いて降りる。握っていた部分がぐしゃりと歪んだ渡すはずだった小さな手紙を見つめながら私は呟いた。

「本当に…おめでとう…大好きですよ…先生…」

帰り道、夕日でオレンジ色に染まった空を見て私の初恋もきっとこんな色だったんじゃないかと思った。

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