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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ドラゴンと王子

ドラゴンと王子

作者: あき

昔々、王国の近くの森にはドラゴンが存在していた


紅い瞳


躰を覆う漆黒の鱗


鋭い爪と牙


口から吐く炎は全てを焼き尽くし


その声は心臓を凍らせるほど恐ろしかった


しかしその心は穏やかで


背中では沢山の鳥が羽を休め


足元では森に住む動物達が寄り添って眠っていた


人々はドラゴンの力を恐れたが


心優しいドラゴンを嫌うことはなかった




人の住む国には王と3人の王子がいた


1番目の王子は勇ましく


2番目の王子は賢く


3番目の王子は優しかった


3番目の王子のみ魔法が使えなかったが


王も兄達も優しい3番目の王子が好きだった


3人の王子は国民にも愛され


王子達もまた国民を愛していた


国も森も豊かで人々もドラゴンも幸せだった



しかしある日ドラゴンが人間を襲った


紅い炎は国を染め上げ人々は為す術もなく


燃え上がる炎に飲み込まれていった


1番目の王子は炎に焼かれ


2番目の王子は鋭い爪に切り裂かれた


王は自らの命を引き換えにしたが


古からいるドラゴンを倒す事はできなかった



炎が波の様に国を飲み込み


国が絶望に染まるなか


ドラゴンを退治すべく立ち上がったのは


兄達の後ろをついて回っていた3番目の王子だった


兄達とは違い魔法が使えない3番目の王子は


勇敢にも剣でドラゴンに立ち向かった


3番目の王子が魔法を使えない事はみんな知っていた


知っていたから逃げてくれと懇願した


3番目の王子は国民の最後の希望だった


「もう殿下しか残っていない」

「自分達が惹きつけるからその隙に」

「あなただけでも」


ドラゴンに向かう3番目の王子を沢山の手が阻んだ


それでも王子はドラゴンに向かって行った




爪を弾き炎を掻い潜りドラゴンと渡り合った


片目は見えず片腕は動かなくなった


それでも王子は引かずに戦い続けた


王子にとっては長い長い戦いだった


やがてゆっくりとドラゴンの動きが止まった


王子もゆっくりと動きを止めた


ドラゴンと王子の目には涙が光っていた


ドラゴンは王子を見つめゆっくりと目を閉じた


王子は激闘の末ドラゴンを倒し国に平和が訪れた






王子とドラゴンは友達だった


一緒に遊び一緒に食べ一緒に眠ることもあった


ドラゴンと王子はお互いに親友だと思っていた


王子が隣の国に出かけている間に国の偉い人が言った


「ドラゴンの爪は武器に、鱗は盾に、血は薬になる」


そう、ドラゴンはお金になる


その為に王子は邪魔だった


ドラゴンは自身の価値を知っていた


でも王子はドラゴンの価値を知らなかった


本当に、知らなかった



王子が国についたのは大事な人たちがいなくなった後だった


ドラゴンは裏切られたと思った


傷つける為に近づいたのかと


動物達を殺し森を焼いたのは人間だと


王子もまた、裏切られたと思った


ドラゴンとは友達だと思っていたと


大切な人たちを殺し国を焼かれたと


元凶の偉い人はすでにこの世にいない


ドラゴンと王子のすれ違いを知っている人は、いない



ドラゴンは王子より圧倒的に強かった


魔法の使えない王子なんてあっという間に倒せるほど


でもどうしても致命傷は負わせられなかった


王子もドラゴンをきる剣に躊躇いがあった


友達だから。友達だったから


戦っているうちにどちらからともなく泣いていた


涙で前が見えなくても戦った




涙を見てお互いに確信した


ドラゴンは安堵した。裏切られてなどいなかった


王子は更に泣いた。ドラゴンの考えがわかったから


ドラゴンは王子に向かってゆっくりと目を閉じた


王子にはドラゴンの望みがわかっていた


王子は震える手で剣を握り

ドラゴンの心臓を目掛け剣を差し込んだ


国は平和が訪れドラゴン殺しの英雄の名前は後世まで語り継がれた













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― 新着の感想 ―
[一言] なんて哀しくて優しいお話。 荒んだ心が洗われます。
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