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結婚。
なんて言ったら、君はどん引きするだろう。
君はまだ若くて、大人になったばかりだから、そんなことを考えたこともないはずで。
天涯孤独という大変な道を歩いてきて、そしてそんな逆境の中でも、君は看護師という尊い仕事を選択し、そしてそれを立派に全うしている。
俺がこんなことを考えていると知ったら、君は苦笑いをしながら離れていくかも知れない。
君はとても優しくて、相手を思いやる気持ちに満ち溢れている。そんな君を、好きになる男はたくさんいるのだろうな。
俺も、ただ。
その男の中の一人に過ぎなくて。
しかも歳は離れているし、どこからどう見てもおじさんで、車の運転も覚束ないような情けない男で。
自分でもそう思うよ、君の心のこもった温かい肉じゃがで、泣いてしまうような情けない男とは、と。
しかもそれ以上に、俺は馬鹿みたいなことをしでかしてしまった。
今日、用意した誕生日プレゼント、実は二つあって。
最初、小さいけれどダイヤのついた指輪を買ったんだ。サイズはもうわかっているから、深水に頼むこともなく、ちゃんと今回は一人で買いに行って。
指輪を買ってから店を出て、家に帰る時。
急に怖くなったんだ。
こんな指輪をあげるだなんて、求婚だと思われたら、と。
まだ若い君は、結婚なんてこれっぽっちも考えていないだろう。
どん引きされて、重いと思われて、そして嫌われたら……気がついて、頭が真っ白になった。
慌てて、知り合いが経営するセレクトショップに駆け込んで、可愛らしい形のポーチを二つ、プレゼント用に購入した。
ほっとしたんだ。このプレゼントなら、引かれないだろう、と。
それなのに、俺は性懲りも無く。
君が作ってくれた肉じゃがを口にした時、こんなに手を掛けた美味しい料理を、俺の側でずっと作ってくれたら、と思ってしまった。
けれどその反面。
そんな君を失ったら、俺は一体どうやってこの先を生きていけばいいんだ、とも思ったんだ。
思った途端、心の奥底から震え上がってしまった。
涙が出てきて、自分では抑えられなかった。
調子に乗って、指輪なんか買うんじゃなかったと、自分を心底情けなく思った。
君を手に入れた、などと思って安心して、この唯一無二の真剣な恋を駄目にしたくない。
「この肉じゃがを、他の誰にも作らないでくれ」
喉元まで出かかった言葉を、何とかねじ伏せて飲み込んだ。
泣くなんて。
いい大人の男が。
本当に情けないし、みっともない。
わかっていても、どうしようもない。