第4幕 当日
翌日、嘉館家の食卓。
成人、水城がテーブルを囲み、冴沼と明日葉が側に控えている。
「いよいよ今日ね〜。ああ、緊張する!」
水城は椅子に腰掛けつつ、うずうずしている。
「仕方ないさ、僕だってかなり緊張している。でも、僕らは一人じゃない。お互いに支え合おう、これからも。」
成人は水城を励ます。
「うん、ありがとう成人!」
水城は表情をパッと明るくする。
そんな和やかな、カップルの様子をよそに。
「ああ……結局今日を迎えてしまったが、策は何もなし、か……」
冴沼はそわそわしている。
結局成人を振り向かせる策は、何も思いつかなかった。
「さて、そろそろ行くか。冴沼、車を頼む。」
「あ、は、はい!」
成人が腰を上げ、冴沼がそれに応じようとする。
その時、冴沼の頭にひらめくものが。
「そうだ、何故今までこんなことに気づかなかったんだ?車を運転するのは私、乗るのは坊っちゃま! ならばあれをやるしかない。そう……駆け落ち! むしろこれは、私にはできる! 水城様にはできない! 見てろよ水城様…… いや、フィアンセ野郎! これからは、私のターンだ!」
冴沼は(あくまで心の中で)高笑いをする。
「さ、私たちも行きましょう。」
「はい。……冴沼さん。」
「は、はい!」
行こうとした明日葉に呼び止められ、冴沼は姿勢を正す。
「今日はとても大切な日。くれぐれも、道を踏み外されることないよう……」
「は、はい! ……え?」
明日葉、水城はそのまま外へ出て行く。
場所は変わり、屋敷の外にて。
冴沼は車を支度し、成人を待つが。
先ほどの明日葉の言葉が、どうにも気になる。
「おいおい、まさか君澤さんに見抜かれている……? で、しかも今日に限ってSPもやけに多いとなると難しいな、かけ……」
「かけ、何だ?」
「ああ坊っちゃま! か、かけ蕎麦でございます。」
気がつけば成人が既に乗り込んでおり。
言いかけた言葉を冴沼は、ごまかす。
「何だ、食べたいのか?」
「いやー、今日はやけにSPが多いですね〜!」
「ん? そういえば、やけに多いな……」
なんとか話を逸らすことには成功し。
冴沼はほっと、安堵するが。
「は、はい! そうだ、今更何を迷っている!?
ここはもう、let's駆け落ち!」
「冴沼?」
「い、いえ! さあ、発進です!」
思わず一人言が漏れるも、冴沼は気をとりなおして発進させようとするが。
突如、近くで爆発音が響く。
「うわああ! 一体何だ!?」
冴沼が驚いていると。
男二人が車の中に乱入し、成人に銃を突きつける。
「さっさと出せ!」
「な、成人様!」
「聞こえねーのか!」
「は、はい!」
冴沼は成人の身を案じるが、心配している暇すら与えられず。
男の一人が命じるままに車を、発進させる。
屋敷の門の前に、火宮が立っている。
「気にするなとおっしゃりながら、このSPの数……やはりあの手紙は……」
と、考えを巡らせていると。
上尾が、血相を変えてやって来る。
「執事長〜!」
「何だ!? 騒々しい!」
いつも通り騒がしい上尾を、叱り飛ばす火宮だが。
上尾の次の言葉には、耳を疑う。
「ぼっ、坊っちゃまが……誘拐されました……」
「何!? お前は何をやっていた! ……いや待て、坊っちゃまについていたのは冴沼……冴沼め、側にいながら何をしていた!? あいつは今どこだ!」
火宮ははっと気がつき、冴沼はどこかと周りを見渡すが。
耳を疑う報告は、未だ続く。
「そ、それが冴沼も一緒に……」
「何!? 何故そんなことが起こった!」
火宮は興奮収まらず、問う。
「そ、それが……丁度坊っちゃまを冴沼が車に乗せた時に、どこからかすす爆弾が降ってきてSPがそれにかき乱されてる内に……」
「抵抗する間もなく車諸共……だと!? そんなことが理由になるか!」
今回ばかりは上尾を叱っても仕方ないが、火宮は声を荒げる。
「俺に怒らないで下さいよ! そもそも、こんな厳重な警備が安安と突破されるなんて、おかしいですよ!」
「だが実際問題! ……確かに妙だな、一体どうして……」
火宮は一瞬、考え込むが。
「分かるわけないでしょ、俺に訊いたって!」
「もとからお前には聞いていない! それで、現場保存は?」
「あ、確かやったと……」
「思う、じゃないよ! 早くやれよ!」
「へい〜!」
上尾は素早く、現場へはけていく。
火宮は携帯を片手に、考え込む。
「会長にも知らせなければ。何を言われるか分かったもんじゃないな。しかし、何故この警備が安安と突破されたんだ?まさか……」