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リア0to10   作者: ウイクエ
2/8

第1幕 前夜祭

とある街、とある夜。

ある男が女を追いかける。

……いや、女に追いすがっていた。


男は名を、冴沼音児(さえぬまおんじ)という。


「ねえいやだよ、捨てないでよ!」

「触んじゃねえよ、お前女かよ!」


見ての通り、冴沼は振られた。


「……僕のことを、からかったの? あんなに愛してると言ったのに!」


ふむ、この言葉どこかで聞いた気もするが。

さておき。


そして失意の中、街をふらついていると。


「……続いてのゲストは、次代の嘉館(かかん)グループを担うホープ、嘉館成人(なると)さんです!」


声は、電機屋のテレビより聞こえた。

何気なくモニターを見る冴沼。

その瞬間、彼は雷に打たれた気分になる。


そこには絵に描いたような、イケメンがいたのである。


「! ……そうか、そうだったんだ! さっき酷い女に振られたのも、全てはこの人に会うため……!」


冴沼はすっかり、このイケメン・嘉館成人の虜となった。




それから一年後、とあるパーティー会場。


ステージにスポットライトが当たる。

中に浮かぶは嘉館家執事・上尾(あげお)である。


「レディースエーンド、ジェントルマン!」


声を上げた上尾の後ろより、怖い形相の人が。


「バカもん、真面目にやらんか! ……皆様、お待たせいたしました、我が嘉館グループ御曹司、嘉館成人の登場です!」


その怖い人・嘉館家執事長火宮(ひみや)うるきの掛け声と共に、姿を現したのは。


嘉館家御曹司・成人である。


「皆様、明日の本セレモニーの前夜祭にお越しいただき、ありがとうございます。私嘉館成人は、世界の皆様より多くご贔屓いただく嘉館グループの次代を担う者として」


成人はそつなく、スピーチをこなす。


「カンペ作った甲斐がありましたね〜」

「口を慎め!このようなお言葉は成人様だからこそな……」


上尾と火宮がこんなやりとりを繰り広げる中。

メイドが一人、やって来る。


「執事長、お手紙です。」

「何だ? 今大切な時間だ、分かっているだろう?」


まさにタイミングを考えぬメイドに、火宮は呆れ返るが。


「いえ、早く対処なさらないとと……内容が内容ですので」

「だから……て、内容を勝手に見たのか!?」


火宮はすごい剣幕になる。


「す、すみません……とにかくお早く!」


メイドはすっかり、タジタジとなり。

手紙を押し付けるようにして渡すと、急いで会場を出る。


上尾、火宮は顔を見合わせる。




場所は変わり、控え室。

ここに一人、主人である成人を待つ男が。


嘉館家執事・冴沼音児である。


「遅いな〜、何で前夜祭でここまで時間食うんだよ……

(欠伸)」


と、すっかり電源を切った様子の冴沼だが。


そこへ、成人が登場する。


「すまない、遅くまでお待たせして。」

「な、成人様! い、いえそんな滅相もない……」


主人の到着に、立ち上がり居住まいを正す冴沼だが。


そんな彼を見かねた成人は。


「おいおい、さっき堅苦しい場に出てきたばっかりなんだよ。ここでお前にまで堅くなられたら、本当に息が詰まって死んじゃうよ……」


冴沼を宥めるが。


「ししし死ぬ!?成人様、もっとお命を大事に」


冴沼は、今度は騒ぐ。


「例えだよ例え! ……はあ、本当に疲れたんだ。肩でも揉んでくれよ。」


そのままソファに腰掛けた成人は、上着を脱ぎ。

肩を差し出す。


「はい、では!」

「痛い痛い!」

「あ、すすすみません!」


思わず加減知らずに肩を揉んでしまった冴沼は、手を引く。その様子には成人も、やや慌てた様子を見せ。


「あ、いや大丈夫だ。まったく、相変わらずお前といると退屈しないよ。騒がしいのも相変わらずだが。」

改めて冴沼を、宥める。


「あ、すみません……」

「いや、いいんだ。……そういう所、嫌いじゃないよ。」


場には何やら、妖艶な雰囲気が流れる。

そのまま冴沼は、成人に顔を近づける。

「成人様…」


が、その空気はすぐにぶち壊される。

成人の彼女、師合水城(しごうみずき)の乱入によって。


「なーると! 今日はお疲れ様。」


入るなり水城は、成人の首に手を回す。

冴沼は、密かに舌打ちする。


「ああ、すまない。長いことお待たせしたね。」

「ううん、いいの。だって今日は大切な日じゃない!」

「え……?」


水城の意味深な言葉に、冴沼が驚いていると。


さらに水城の両親・師合園美(そのみ)(たけし)が登場する。水城は、立ち上がり居住まいを正す。先ほどとは打って変わって、畏まった様子である。


「お疲れ様、成人さん。ご立派だったわよ。」

「まったくだ、嘉館の家に恥じない振る舞いだったぞ。」


入るなり夫妻は、口々に成人への賛辞を口にする。

成人も、立ち上がり夫妻の方を向く。


「ありがとうございます。ご夫妻には、本当にお世話になっております。今後とも……」


言いかけた成人を、園美が制止する。


「そう堅くならないで、私たちはゆくゆくは家族じゃありませんの。」

「お母様、それは蛇足ですわ。」


結婚に言及し始めた母を、水城は制止するが。


「いや、本当なんだ。」

成人は、水城の方に向き直り。


「……水城、明日の本セレモニーで、僕のパートナーとして出席してほしい。」

「ええ!?」


成人の言葉に冴沼は驚く。それはつまり――


「え、それは……」

「つまり、僕のフィアンセになってほしいんだ。」

「!? ……夢みたい。」

成人からのプロポーズに、水城は涙ぐむ。


「……そんな……」

冴沼はただただ、指を咥えて見ることしかできない。


「どうかな?」

「……成人様さえ良ければ。」

「ありがとう。」

婚約、成立してしまった。


「……嘘でしょ」

冴沼は、呆然とする。


「おめでとう、2人とも。……でも、成人さん。今の時代、絶対安定などないわ。それは嘉館グループとて同じ。貴方にとってゴールは、水城の婿となることでも、嘉館グループの頂点に立つことでもない。それは始まりよ。…分かってるわね?」


二人を祝福しながらも、成人を試すように園美は圧をかける。


「お〜お姑さん怖〜」

冴沼が何故か、一番怖がるが。


「ご安心を。今後は、嘉館を背負う者として、水城さんの婿として、恥じない振る舞いをより貫く姿勢でおります。必ず、この役割を全ういたします。」

成人はまったく動じず、まっすぐに園美を見て答える。


「結構。それでこそ嘉館の御曹司ですわ。」

この答えに、園美もすっかりご満悦である。


そこへ師合家執事・君澤(きみさわ)明日葉(あすは)が入って来る。

「失礼します。お車の用意ができました。奥様、旦那様、水城様。夜も更けつつございます、そろそろ」


「ああ、ありがとう君澤君。 さあ園美、水城。我々はそろそろお暇しよう。」

その言葉に気づいた武は、二人を促す。

「ええ、そうね。さあ行きましょう。」

「ええ。……じゃあ成人、また後でね。」

明日葉に先導され、師合一家は控え室を後にする。


「成人様、本気ですか?」

冴沼は問う。


すると成人は、冴沼をまっすぐ見つめて。

「当然だ、僕は一生彼女を愛し続けると誓う。」

そう、宣言する。


「ええ〜」

冴沼は、返す言葉がない。


「今のは臭かったかな。では、また明日。」

そう言うと成人は、控え室を出て行った。


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