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18.

「ルピシアさん」

 ユーリスは目をパチリパチリとゆっくり開いたり閉じたりを繰り返しながら私へと手を伸ばす。

 ただでさえ起きたばかりで眠い上に、眠くなるような作用のある薬を飲んだのだ。ユーリスの中での眠りへの欲求は強くなっていることだろう。

 

「どうしたの、ユーリス?」

 この黒い髪ともお別れかと思うとついユーリスの頭に手が伸びて、何度となく撫でたその髪を指で梳く。

 

「ルピシア、さんは……もしも、もしも僕が…………」

 途切れ途切れに紡いだ言葉はやがて眠気に負けてしまったようでそれから先を告げられることはなかった。これが子どものユーリスとの最後の会話だと思うと少し味気ないようにも感じる。

 

 けれどユーリスが居なくなるわけではないのだ。

 

「これからもよろしくね、ユーリス」

 

 そう、これからは大人のユーリスと付き合っていけばいい。

 距離は遠くなるかもしれないが、遠いなら詰めればいいだけである。

 

 お飾りとはいえ妻は妻。

 

 私が彼と結婚したことで、後々ハルビオン家に繁栄をもたらすというのなら多少距離感を詰めたところで追い返されることはあるまい。

 

 ならユーリスのお仕事の邪魔にならない範囲で彼と交流を深めよう!

 そう決心をして、まだ小さなユーリスの頭を抱えるようにして眠りについた。

 

 

 

「ル、ルピシア!? な、な、な、なんでお前がここに?!」

 寝る前と変わらずすぐ近くにある頭は、黒髪から銀髪へと色を変えて居た。ついでに大きさももう子どものものではない。

 それでも指通りのいい髪質だけは全く変わっていなくて、まだ気だるい腕を持ち上げて、なぜか少し私から遠ざったユーリスの頭へと手を乗せる。

 

「おはよう、ユーリス」

「お、おはようって、お前は……。結婚しているとはいえ若い男女が夜を共に明かすことの意味がわかっているのか!? もっと自覚を、だな……」

「……また『魔力暴走』がとでもいう気? 私はそんなの気にしないけど」

「魔力暴走? そんなもの今は関係ないだろう? いや、まさか……私が研究中の薬の副作用が起きているうちにお前と何かしでかして……。くっそ、まるまる記憶が抜け落ちている……。念のためにこの屋敷中に記録魔法を発動させておけばよかった」


 普通は血の気が遠のいて青白く見えそうなものだが、ユーリスの顔は徐々に赤く染まっていく。

 

 私の場合、家ではずっと兄弟と一緒に寝ていたから全く気にならないのだが、この歳で誰かと一緒に寝るというのは恥ずかしい行為なのだろうか?

 

 首を右へ左へと捻ってみるがやはりわからない。

 

 とりあえず今わかるのは、子どものユーリスが気にしていた『魔力暴走』は今のユーリスにとっては『そんなもの』でしかないことだ。

 きっと成長する過程で克服したか、自然に治ったかしたのだろう。それがなんだか私にはわからないが、一安心である。

 

「ルピシア!」

「はい」

「もしお前に子どもが出来たらしっかりと扶養責任は果たすつもりだ。だから安心して私に伝えるといい」

「何をです?」

「それは、その……子どもが出来た時に、だな……」

「はい、わかりました」


 子どもは愛し合った夫婦にしか授けられないものだそうだが、それは家族愛でも適応されるのだろうか?

 お母さんに聞いとけば良かったな……。

 だが、とりあえず子どもができた時にはちゃんと育ててくれるらしい。

 お世話は弟妹で慣れているから問題ないのだが、金銭面は少しだけ心配だったのだが、さすがは結婚の際に多額のお金を出したユーリスである。


 子育ての際にかかるお金はどうにかしてもらおう!



「えっと、それじゃあとりあえず私は研究室に籠もる」

「あ、そうだ、ユーリス、これ、フェルナンドからの手紙です」

「手紙? いつあいつは来たんだ?」

「昨晩、ユーリスのために作ってくれた薬を持ってきてくれたんです」

「そうか」


 ユーリスは私に背を向けると、歩きながら手紙を開封していた。




 ――この時まではユーリスに何か異変があったわけではなかった。


 だがその日の夕食からユーリスは私の視線から逃げるようになってしまったのだ。


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