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13.

「え?」

 確かに私は『ユーリス』と、一応とはいえ夫である彼の名前を呼んだ。

 だがそれはあくまで『ユーリス』を呼んだのであって、この黒髪の小さな男の子の名前を呼んだのではない。

 

 どういうことだと首をひねって、ああと納得する。

 この子の名前もまた『ユーリス』なのだと。

 

「ユーリス様、ご無事ですか!!」

「爺や!」

「ユーリス様……まさかこうなってしまうとは……。ユーリス様、こちらは一昨日の夜にユーリス様ご本人から預けられた手紙です。……ルイーザ様にはこちらを」

 

 ――だがその考えは遅れてやって来た執事さんから手渡された手紙によって撤回された。

 

 ものすごく遠回しに書かれていた内容を要約すると、目の前の少年はユーリス本人であるということがわかった。

 ユーリスの字を見たのはたった一度だけだが、なぜか私にはこれは間違いなくユーリスの字であるという確信があった。というかわざわざ執事さんがユーリスからの手紙だと言って嘘の手紙なんて書く理由もないし。

 唯一の違和感と言えば、髪の色が銀ではなく黒だが……大人のユーリスが髪を染めているということもあるのであまり気にしないことにしよう。

 

 思考の整理は案外簡単に着いたところで再びユーリス少年に目を向けると、彼もまた手紙から目を上げて私を見つめていた。

 

「ルイーザ、さんは……」

「ん? 何?」

「僕の奥さん、なんですか?」

「そうよ」

 

 手紙によると魔法の研究の失敗結果らしいこの状況で、ユーリスが考えられる症状として書いたのは主に3つ。

 

 1つ目は身体の幼児化――これは見ての通り。

 

 そして2つ目が身体の幼児化に伴う、記憶の欠如。

 私のことを覚えていないからこそのこの若干怯えたような態度なのだろう。執事さんには馴染んでいるみたいなのに……とショックを受ける必要はない。単純に接してきた年数が違うのだ。

 子どもに怯えられるなんて……と気にしたら負けである。

 

 最後に3つ目だが、『幼児化した私に深く関わるな』なんてこれは症状というよりは注意点のようなものだろう。

 なぜわざわざ症状と並べて書いたのだ。

 その方がちゃんと読むけど……なんか納得いかないと思わず子どものように頬を膨らませてしまう。

 

「あの……ルイーザさんはなぜ僕と結婚したのですか?」

「私、ユーリスの水晶に選ばれたんだって」

「水晶、に?」

「そう。それで好条件を突き出されて、承諾したの。詳しいのはユーリスの誓約書とかに書いてあるからユーリスの部屋を探せばあるんじゃないかな?」

「……お互いが好きあってってわけじゃあ、ないん……ですね」

 

 表情に影を見せたユーリス少年に、一気に罪悪感がこみ上げる。

 この歳だとまだ結婚に夢を見ている、なんてこともあり得るのだ。

 だが嘘は良くない。

 

 だから偽りで固めるのではなく、事実の上から事実を重ねることにした。

 

「私はユーリス曰くお飾りの嫁だから。あ、でも色々と良くしてくれるし、花壇だって作ってくれたんだよ」

 

 契約でも、好きあってなくても、お飾りでも、大人になったユーリスはちゃんと良くしてくれているのだと。

 

「花壇?」

「そうそう。見に来る? ユーリスからもらった栄養剤のお陰で異様に成長が早くて、イチゴなんかはもう実が収穫出来るよ」

「イチゴ、ですか………………行きます」

「さっき赤くなってるところ確認したばっかりだからまだ甘いか酸っぱいかわかんないんだけど……酸っぱかったらジャムにしてパンに塗って食べよう」

「はい」

 

 関わるなという大人のユーリスからの手紙と、怯えている割には私に興味を持ってくれているらしい子どものユーリス。

 どちらを優先させるかと言えば、当然子どもの方である。可愛いし。

 ちゃんとした理由も書かずにだまし討ちみたいな記載をする大人のユーリスのことなんて知らないと少しくらい意地悪をしても許されるだろう。

 

 親しみをこめて頭を撫でてあげると、ユーリスは嬉しそうにクシャリと笑顔を作った。

 その髪は髪を結うために触れた大人のユーリスの髪と同じぐらい柔らかかった。


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